XTC Best Band Ever

XTC is the best band ever. Period.

アンディのパーティーDJプレイリスト

アンディがDJになったつもりで1曲づつ解説

 

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    1. Take Five - Dave Brubeck

    This is music for people to put their coats on the bed, to hand a drink over and go and find a seat. It’s very jolly and pleasant and you can actually leave the television picture on with no sound while playing.

    パーティーに来た仲間がコートをベッドに置き、飲み物をみんなに渡し、座るイスを探す————-その時に掛ける音楽。とても陽気で心地良い。音を消したテレビをつけたままが良いね。

     

    1. Autumn Almanac - The Kinks

    This is a sort of warm song. Gives people the idea that pop music will be played from now on, and you find yourself secretly going ‘yes, yes, yes, yes’ so you get the idea that maybe it’s a party you can actually join in.

    ウォーミングアップみたいな曲。みんなにこれからポップな音楽が流れてくるんだろうなと思わせて、内心「そう、そう、その通り」と頷いてる。結構ノレちゃうパーティーかもって期待感。

     

    1. Do It Again - The Beach Boys

    Everyone likes The Beach Boys ‘cause they’re sickeningly jolly and you sort of get the idea ‘hey - it’s okay to dance’ because of that infectious backbeat there.

    ビーチ・ボーイズはみんな好き。気が遠くなるくらい陽気で、クセになるバックビートが「ヘイ!踊ってもいいんだぜ」という気にさせるから。

     

    1. Sex Machine - James Brown

    Now the mood starts to get a bit more involved. Anyone not dancing is in the kitchen running through their Open University psychology course and/or washing up while you’re being as sex machine with the girl from the fishmonger’s. You’re still worried about your carpet at this point. 

    そろそろムードが盛り上がってきた。踊っていない奴らがキッチンで放送大学の心理学コースを受講したり、皿を洗ったりしてる間、君は魚屋の娘とセックス・マシーン化してる最中。この時点ではまだカーペットを気にしてる。

     

    1. Gimme Some Lovin’ - Spencer Davis Group

    The first signs of vocal participation happen around here. Some people are starting to get drunk enough to get into arguments and swear that this is actually a Cream track. The first drinks start to get spilt and there signs of gaps appearing in the larder.

    この辺りから、みんな次第に歌い始める。何人かは口げんかが始まるくらいに酔っ払い始めて、実はこれはクリームの曲だ!と悪態をつく。お酒がこぼれ始め、食料庫が空になってきてる。

     

    1. Relax - Frankie Goes To Hollywood

    Vocal participation is getting very strong now, with people up and dancing and you begin to wish you’d invited the neighbors. There’s no way of denying there’s a party on when skinheads turn up with two bottles of Cherry B and it’s very difficult to deny people entrance.

    歌声も激しくなってきて、みんな立ち上がって踊り、ああ、お隣さんも招待すればよかったと思う。スキンヘッドがチェリーBのボトルを2本手に登場。もうこれは正真正銘のパーティーだ。誰も参加するのを拒めない。

     

    1. Satisfaction - Rolling Stones

    Everybody’s feeling a bit of a rebel by now - up and punching the air sort of thing. Your girlfriend and somebody you thought of as your best friend are mysteriously missing and the parents of the early leavers are standing grimacing in the hall as their daughter’s upstairs searching for her scarf. The first dolly of vomit appears on the windowsill.

    誰もがちょっと反逆したい気持ちになってる。ジャンプして宙を殴りたい感じ。君の彼女と親友が謎の失踪を遂げてる。パーティーを“早退”する奴らを迎えに来た親が、自分たちの娘が二階でスカーフを探している間、ホールで不機嫌そうに立ってる。窓辺に最初の嘔吐物の塊が現れる。

     

    1. Sisters of Mercy - Leonard Cohen

    Only about 20 seconds of this as your drunken tearful girlfriend re-appears and insensitively spoils the good mood by insisting petulantly that it’s her stereo and she wants this on… The fracas and the clanging of flying Party Fours of Whitebread are drowned by the opening chords of…

    この曲は20秒しか掛けれない。というのも、酔って泣きべその君の彼女が戻ってきて、自分のステレオなんだからこっちの曲をかけてと文句をつけるから。せっかくの良い気分を無神経な言動で台無しにされた。郊外に住む仲間達の飛び交う騒動は、次の曲のオープニングコードでかき消される...。

     

    1. All Right Now - Free

    It’s far from being all right now but who cares by this time? The first strip of wallpaper has been pulled away, the first police warning to “tone it down” has arrived, as has the first Arab bearing a bottle of milk and a hand-painted gold invitation, even though no invitations were in fact sent out! The first half of the trestle buffet table collapses under the weight of dancers.

    大丈夫とは言いがたい状態だが、誰も気にしない。最初の壁紙がはがされる。最初の警察の「音量を下げて!」という警告がされる。牛乳の瓶と手書きの金の招待状を手に最初のアラブ人が登場する。招待状なんて一枚も送ってないのに!ビュッフェテーブルの前の半分が踊る奴らの重みで壊れ落ちる。

     

    1. Hi Ho Silver Lining - Jeff Beck

    Vocal participation has now reached its height. No-one is even sure if the record’s still playing in fact. It’s the sort of version that goes on for half an hour because some bright wag keeps turning the record off when it gets to the chorus and everybody keeps going “His Hooo Silver Lininggg…” Best heard when dancing trouserless and wearing a lampshade.

    大合唱は今やピークに達した。レコードがまだかかっているかどうかさえ、誰もわからない。サビに入るところで毎回聡明な誰かがレコードを止めて、みんなが “ヒーズ・フー・シルバー・ラーイニーンング... "を大合唱するので、30分も延々と続くバージョンとなる。ズボンを脱いで、ランプシェードをかぶって踊るときに聴くのが最高。

     

    1. L.A. Blues - the Stooges

    No-one actually cares at this point what music is playing and some people will even try and dance to this. You look out of the window and see the mattress from your bed in flames in the garden, and the general scene looks like a painting by Heironymous Bosch or Dante’s Inferno with pomagne. It turns out that you went to school with one of the ambulancemen.

    この時点では誰もどんな音楽が掛かっているかなんて気にしていない。中にはこの音楽で踊ろうとする人さえいる。窓の外を見ると、ベッドのマットレスが庭で炎に包まれている。その光景はまるでヒエロニムス・ボスの絵画かポマーニュで堕落したダンテの地獄絵のようだ。実は救急隊員の一人と同級生であったことが判明。

     

    1. The Egyptian Book Of The Dead - The Third Ear Band

    After Verdun or Woodstock or whatever, what better to soothe the loving as they gently murmur - no louder usually than the dawn chorus, but they’re wrapped up in quilts and your curtains and laid in pockets of two and three nodding gently in agreement over things like what was the best line-up of Yes. 

    Generally something by The Third Ear band would wind down nicely.

    ヴェルダンやらウッドストックやらが終わると、愛すべき人々が静かな小言(通常は明け方の大合唱よりは静か)を言うのをなだめるには、23人と一緒にキルト布団やカーテンにくるまって、バンドYesの最高のメンバーラインアップ等についてそっと同意してうなずいたりしてる。だいたい、パーティーのお開きにはThe Third Earのバンドがいい感じに幕を閉じてくれる。

 

サラウンド・サウンドの天才スティーブン・ウィルソンの最新インタビュー#3「XTCの全アルバムをサラウンド化するまで止めない」「バージンの杜撰なテープ管理。ヘビメタ開祖サバスの中核アルバムのマルチテープは完全消滅」「アンディの几帳面さには脱帽。メールで”シンプルトンのニューミックスのハイハット10k出過ぎだよ”とか書いてくる(笑)!」

ティーブン・ウィルソンが語る#3 9.3.2021

XTCリミックスについて (かいつまみ和訳)

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#2はこちら👇

xtc-the-best-band-ever.hatenablog.com

 

アンディからメールが来て、”あの5.1ニューミックス『メイヤー・オブ・シンプルトン』のハイハットだけど10k出し過ぎ”(笑)とか”『オムニバス』の”ベースドラム60kHz出し過ぎ”なんて書いてあるんです。非常に具体的!そして、いつも言ってることが正しい!

 

GO2とホワイトミュージックも是非やりたいですね。「ネオンシャッフル」、「メカニックダンシング」、バッテリーブライド」、「ビートタウン」とか。実は自分はポストパンク世代チャイルドなんです。1980年に十代になったんです。ワイヤー、コクトーツインズ、マガジンを聴いてました。XTCのアルバムは80年代中期に発見。そういう背景もあって、GO2とホワイトミュージックも大好きなんです。あの二枚に対して色んな改善が出来るんじゃないかな。良くアンディが、あの二枚のアルバムのドラムの音がタッパーだか段ボールを叩いてるみたいなんて言ってますよ。もっと活気横溢で心に迫るようなサウンドにしたい。実際にマルチトラックを手に入れるまでは分かりませんが...。

 

XTCの全アルバム14枚(デュークス2枚を含む)を5.1化したいと思ってるんです。現在は7枚目。全部5.1にするまで止めません。今は『アップルヴィーナス』のトラック紛失中でちょっと壁にぶち当たっている状態ですが....。(『AV』のサラウンド化が中断している詳細はインタビュー#2を参照。)良く今後のサラウンドミックスの予定を聞かれるんですが、”フルセットのテープが発掘されたアルバム”が次のサラウンドミックスとしか言えません(笑)。テープが見つかった順番にミックスする。

 

XTCのテープについて残念なのはきちんと保管がされていなかったこと。レーベルによりますが。大事に保管してくれるレーベル、そうでないレーベル。EMIはジェスロ・タルのテープを大切に保管してくれてました。バージンはそうじゃなかった。バージンのアーチストでリミックスをしたいアーチストが沢山あって取りかかろうと思ってたのに全部のテープが見つからないケースがいくつかあって。ブラック・サバスのテープは完全に消滅してます...。ヘビーメタ開祖のバンドですよ!サバスの中核となるアルバムのマルチテープが無いんですよ!多分、廃棄物コンテナに捨てたんだろうなと。

 

しかし、批判する際に気をつけないといけないのは、レコーディングした当時はそんなテープが何かのために必要になるなんて誰も思いもしなかっただろうということです。マルチテープがステレオにされた後、そんなテープは二度と要らないだろうと思うのは仕方が無い。まさか当時は5.1とかアトモス(進化版サラウンドシステム)なんてものは...誰も予期していなかったでしょうから。『AV』のトラックの紛失については、まだ見つかるだろうと楽観視しています。どこかにあるはず。可能性としては、ラベル名が誤記だったり、間違った箱に保管されてるとか。見つけるつもりです。

 

アトモスのサラウンドシステムは5.1に輪を掛けて凄い。次にサラウンドをやるXTCのアルバムはアンディにアトモス・ミックスで聞いてもらいます。聴いてもらえばアトモス・ミックスでやりたいと思ってくれるはず。音楽を水平面だけでなく垂直面にも配置出来るというのはもの凄いですよ。このアトモス・ミックスをやるのにXTCは完璧です。少なくとも後期のアルバム、特に『AV』はアトモス・ミックスにぴったりです。

 

サラウンド化した『25オクロック』や『スカイラーキング』みたいなアルバムはライブでは再現不可能な音楽でした。少なくとも簡単には出来ない。それがXTCの音楽の醍醐味。おかげでサラウンドでオリジナルレコーディングと同じくらいクリエイティブになることを要求されるわけで。AC/DCの場合————好きですが———ギターソロが背後や頭上から迫ってきて欲しくないでしょ。そういうベーシックなロックとXTCはレコーディング哲学が違うんです。

 

僕にもシグネチャサウンド、アプローチのパターンがあります。良くオンラインでファンが議論しているのを見ると”スティーブン・ウィルソンのシグネチャサウンドは〜〜だ”みたいなことが書かれています。僕のやり方は大抵ドラムとベースをフロントにきっちりとは配置せずに部屋にぼかす、ボーカルはセンタースピーカーだけどきっちりとは配置されず外側にぼかす。バッキングコーラスはいつもレアスピーカーに置く。時々、意識的にいつものパターンを変えます。デュークスはいつものとは違うことやろうと思いました。普通とは違うやり方って何だろう。もっと奇抜にやろうって。常に使い古したやり方はしたくないですね。

 

アンディとのコラボについてですが(ウィルソンの『ツー・ザ・ボーン』のタイトルトラックにアンディが歌詞を依頼されて提供した)、例えば、サラウンドをやったアーチストの中にはプロジェクトに全く興味が無い人がいるんです。シンプル・マインズは全く関心がなかった。イエススティーブ・ハウは1時間程来て、数曲サラウンドを聴いて ”良いね。じゃあ頼むよ” と帰って行きました。それだけ。全くアーチストからプロセスに関わろうとか関心を示すことはありません。それで最初から最後までアーチスト不在で自分一人で自由にミックスをやって自分、アーチストのファン、そしてレコード会社が気に入るように完成するんです。

 

プロセスに無関心なアーチストの逆がアンディ。ありがたいです。一方、何故アンディがプロデューサーを苛立たせるか分かるんです。僕はアンディみたいに関心を示してプロセスに関わろうとしてくれるのはとっても嬉しいですが。僕自身がアンディみたいなコントロールフリークだから!彼からメールが来て、”あの5.1ニューミックス『メイヤー・オブ・シンプルトン』のハイハットだけど10k出し過ぎ”(笑)とか”『オムニバス』のベースドラム、60kHz出し過ぎ”なんて書いてあるんです。非常に具体的!そして、いつも極めて正しい!でも、細かいと言ったら半端ない!そんなアーチストは他にいなかったんです。

 

僕の新曲に歌詞を依頼した時もそう。最初歌詞のコンセプトもアイデアも何もなかったので、アンディに好きなように歌詞を作って欲しいと”白紙委任状”を渡したんです。彼は音楽を聴いて、それが何を表現しているのかを歌詞にする人なんですが、僕の新曲の音楽を聴いて ”うん、この音楽はこういうことを言わんとしている”と。それをスプリングボードとして歌詞を作るんですね。早速、アンディから電話が来て”歌詞の一行出来たぞ!”って(笑)。”次の一行も出来た!”、そして更に次の一行も出来たって読んでくれるんです。”こんな感じで良い?”って聞くから、”うん、良いですね!”って。すると、”分かった。また次の一行を書くよ”。すると一時間後にまた電話が来て、”またもう一行出来た!”。

 

他のアーチストでは経験しないような細かいこだわり、几帳面さでした。でも、僕が同じ立場だったらきっとアンディと全く同じことをするんですよ。同じようにコントロールフリークだから。何故彼がそんなことをするのか理解出来るし、過去にいかに他の人を苛立たせてきたか分かるんです。特にプロデューサーはレコードをプロデュースしてもらうために雇うわけで。なのにプロデュースをさせないんですから。

 

自分もほとんど他人にはプロデュースしてもらいません。他人にプロデュースさせることが出来ない人間だってかなり最初から分かっていたから。多分アンディもそういうところがあると思う。XTCはバージンと契約し、ニューアルバムの度に超有名なプロデューサーを付けられて、アンディは一緒にレコーディングするはめになっちゃった。でも、それは正解だったんですよ。素晴らしい作品を残せたのですから。もしかしたら、XTCのアルバムが毎回異なっている理由は、その度にプロデューサーが異なっていたからなのかも。

 

何しろ今回のコラボはアンディは非常にきめ細かい仕事をしてくれました。楽しかったです。

 

〜完〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラウンド・サウンドの天才スティーブン・ウィルソンの最新インタビュー#2「アップルヴィーナスの多くのトラックが紛失中で5.1化が困難な状況」「O&Lみたいな音を業界ではコカイン・ミックスと呼ぶ。キンキン耳につく音をリミックスで改善出来たのは誇り」「強固なファンベースの悩みは前のアルバム路線を望まれること」

ティーブン・ウィルソンが語る#2 9.3.2021

XTCリミックスについて (かいつまみ和訳)

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#1はこちら👇

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ファンの大多数は最初に足を踏み入れたアルバムの世界で受けた衝撃や感動を永遠に再体験したいと望む。つまりアルバムは同じで、歌詞を変えて、メロディをいくつか変えて——そんなアルバムをほしがる。強固なファンベースを持つアーチストに内在する悩みです。

 

XTCのサラウンドはずっとやりたかった。APE HOUSEに連絡してアンディを説得するため、自分のスタジオに呼んでXTCの「コンプリケイテッド・ゲーム」と「メイキング・プランズ・フォー・ナイジェル」をサラウンドにしたものを聴かせたんです。「コンプリケイテッド・ゲーム」を聴いたアンディは非常に興奮して”これは全アルバムをやろう!”と宣言してくれた。元々センス良く作られた音楽を突然三次元に変換して聴かせたら誰でも普通は気に入っちゃいますよ。

 

XTCというバンドは一枚のアルバムには、もう一枚違うアルバムを作れるくらいの曲が付随しています。例として、まだテープが見つかっていないのでサラウンドにされてないアルバムに『ママー』がありますが、このアルバムにはボーナストラックやシングルB面集があり、これがまた全部『ママー』に収録された曲と同じくらいに良いんですよ。「デザート・アイランド」、「トイズ」、「ジャンプ」、「ゴールド」どれも素晴らしい。テープを入手したらこれらの曲を全部入れて『ママー』をダブルアルバムにしたい。あるべき姿だからです。それがXTCの素晴らしい所。アルバムだけでなく、ボーナストラックやB面等、XTCの音楽全てがバンドの歴史の各時期に関連しています。アンディの曲は勿論素晴らしいけど、コリンの曲も悪くないですよ。彼の曲はB面に良く入ってる。

 

『ママー』は最初に聴いたXTCのアルバムだったのでお気に入り。XTCは一枚だけ選ぶのは難しいですよね。優れたアルバムが多すぎて。各アルバムが各々独立した世界なんです。とても独特の世界。各アルバムが独自の性格を持っています。僕も自分の音楽キャリアにそのような哲学を取り入れたいです。でも逆にその哲学こそがXTCファンを苛立たせる要因になんですね。好きなバンドにどんどん変貌して成長して欲しいと願うファンは少数派。大多数は前と同じ路線のアルバムを望む。強固な熱烈ファンベースを持つ弊害の1つです。ファンは特定の音楽の世界へ足を踏み入れるんです。例えば、『ドラムス&ワイヤーズ』の世界、『スカイラーキング』の世界、あるいは『オレンジズ・アンド・レモンズ』の世界、そんな素晴らしい音楽の世界へと足を踏み入れるわけです。そして大多数はそこで最初に味わった衝撃や感動を永遠に再体験したいと望むわけです。

 

同じアルバムだけど、歌詞を変えて、いくつかメロディも変えて——そんなアルバムをファンはほしがる。ファンベースを持つアーチストに内在する悩みです。自分も同じ苦労があります。僕のファンも同じものを何度も繰り返して欲しいんです。でも僕はXTC、ザッパ、ケイト・ブッシュニール・ヤングのようなアーチストからインスピレーションをもらっている。彼らは毎回新しいアルバムで “あれはもうやった”、”これももうやった”、”何か全く違うことをやろう!” って。ボウイがそのポスターチャイルドですよね。本当に難しい問題です。変化し続けるのは、あまりにも代償が大きい。XTCは大きな代償を払うはめになりました。商業的な損失。ひとつひとつのアルバムで毎回自分たちを作り変えて行ったから。

 

みんな忘れているけど、ボウイだってそんなにレコードを売っていなんです。同時代のエルトン・ジョンマーク・ボランと比べてボウイは変化を続けたから。XTCも同じ。変化し続けた。そこが好きだったし、僕と同じようなファンもそういうところが好きだったんです。でも商業的に大きな代償を払ったのは事実。

 

大好きな音楽をサラウンドにしています。とても骨の折れる作業なんですが、XTCのサラウンドだって大ヒットするわけではない。でも、熱狂的ファンベースが十分存在するし、新しい世代のオーディオマニアも魅了されています。多分、僕の5.1サラウンドはリリースされると、世界で約5千人が聴くと思っています。自分はそれで十分。そんなファンベースがない場合、5.1にしたところで聴いてくれるのはせいぜい200人程度。200人くらいしか聴いてもらえないのにこんな大変な作業はしたくないです。

 

さっきリミックス作業は危なっかしい綱渡りだって言いましたが、僕だけでなく、関係者一同、”これはサウンド改善が出来るぞ” と意見一致したアルバムもあります。『オレンジズ・アンド・レモンズ』(以降『O&L』)がそれ。僕が手がけたアルバムには元の制作時に何らかの事情で品質上の妥協が見られる作品があるんです。『O&L』は89年の作品。いかにも80年代サウンド。こういうサウンドを業界では"コカイン・ミックス”と呼んでるんです(笑)。決してプロデューサーのポール・フォックスがコカインやってたと言ってるわけじゃない。時々、トレブル(高音)を上げ過ぎて高域がキンキン耳につくアルバムがあるんです。それが コカイン・ミックスなんです。コカインをやると —— 自分はやったことないので分かりませんが —— どうやら何でもかんでもピッカピカに明るくギンギンにエキサイティングなサウンドにしたくなっちゃうようなんです。それでトレブルをどんどん上げちゃう...。”ドラムにもっとトレブル!!”、”ボーカルにもっとトレブル!!”。これがコカイン・ミックス。

 

コカインをやるととにかく何でもいいからスリルが欲しい。それでトレブルをエスカレートさせてしまう。エキサイティングに聞こえるからです。耳障りになるほどエスカレートさせちゃう。コカイン無しだととても耳に痛いサウンド。決して、『O&L』がコカイン・ミックスだとは断定しませんが、聴く度に高音域がなんとなくちょっと不快、ちょっと明る過ぎ、ちょっと甲高いと感じて。アンディもデイブ・グレゴリーも同じ事を言っていました。更に残念ながらCD時代のリマスターがこの問題を悪化させてしまった...。それでリミックスの際にこの高音域を抑えようと思ったんです。楽器のいくつかに中音域のトーンを見つけてみようと。本当はもっと抑えたかったけど、何度も言うようにオリジナルのサウンドがガラッと変わってしまうのを恐れて控えめにやりました。『O&L』のリミックスでみんながXTCから連想するようなトーンと温かいサウンドへと改善させようとしました。

 

(『O&L』の”甲高い”サウンドは80年代の当時の録音技術、録音器に原因があると思うか?という質問に対して)次の事実が無ければ "Yes"と回答したかもしれません。『アップル・ヴィーナス』は素晴らしくオーガニックで温かいサウンドのレコードですが、実は録音はデジタル・システムで44.1kHz/16bit CDレゾルーションでされており、それでも美しいサウンドに仕上がっています。ティアーズ・フォー・フィアーズの『シーズ・オブ・ラブ』も超初期デジタルマシーンで16bitで録音されていますが、『O&L』のような甲高さはありません。でも、確かに初期の録音技術、特に16bit、44.1kHz、48kHzのような低解像は良いサウンドを作る上で助けにはなっていなかったね。

 

毎回5.1サラウンドミックスパッケージに含まれるステレオ・リミックスは、サラウンドを作る過程で発生した副産物と言える。決して意図して作ったものではないんです。当初、サラウンドミックスのプロセスを始めた時、最初のタスクはステレオ・ミックスを作り直すことでした。限りなくオリジナルに近く、限りなくオリジナルに忠実に。そうすることで、5.1の作業で曲を解体する時には既に正しいバランス、EQ、リバーブ、プロセッシングが全てが用意されているんです。だからステレオ・ミックスを再成することに全集中を傾けました。後でアーチストと一緒にオリジナル・ミックスと比較してステレオ・ミックスを作り直すプロセスにメリットを感じた。それで毎回サラウンド・ミックスにボーナスとしてステレオ・リミックスを入れ始めたんです。ファンも非常に気に入ってくれて、それでインストも入れることにしました。アレンジの複雑さを聴くことが出来ます。インストを作るのは凄く簡単。ボーカル無しにするだけ。

 

自分で言うのもなんですが、ステレオ・リミックスはオリジナルから漸進的に改善出来た時もありますし、オリジナルには足元にも及ばない時もあります。ティアーズ・フォー・フィアーズの『シーズ・オブ・ラブ』は上手くいかなかったのでレコード会社に自分のステレオ・リミックスはリリースしないようにと頼みました。XTCのシリーズでは上手くいっています。アンディも僕のリミックスの中にはオリジナルより優れたものがあると言ってくれてます。そう思わない方は何よりもオリジナル・ミックスがパッケージに含まれてますから、そちらを聴いていただけます。ステレオ・リミックスで最も大きく改善出来たアルバムはやはり『O&L』ですね。80年代風デジタルなサウンドをリミックスによって温かい音に改善出来たのは誇りです。

 

最もクリエイティブに出来た5.1はデュークス・オブ・ストラトスフィア。あのようなアルバム(60年代サイケデリックポップグループのオマージュ・パロディ)の場合、自分の周囲を色んな物が飛び交うみたいな悪趣味——あるいは良い趣味と言っていいのか———の領域で出来ることに限界は無いんです。『25オクロック』のステレオ・ミックスではステレオのイメージが丸ごと反転する部分があるんですけど、それをサラウンドにした途端、部屋のフロントにある全てのものが部屋のバックに反転しちゃうんです。そんなギミックは通常のサラウンドではさせてもらえないけど、このアルバムは例外だったんです。

 

デュークスを5.1にするのは心配ではありました。プロジェクトに取りかかる前にプロデューサーのジョン・レッキーに何回か会いに行きましたよ。レッキーに「あれは難しいよ。ライブでミックスに色んな物を投入したから」と言われました。彼は16トラックからミキシングをして、ステレオ・マスターにバウンスダウンした時も家畜の鳴き声などをライブでミックスしていたんですよ。例えば、『モール・フロム・ミニストリー』の牛の鳴き声が同じではない。サウンド・エフェクト・ライブラリーで牛や他の物を探しましたよ。

 

さっきも言いましたが、XTCのファンはXTCの音楽に傾倒しており隅々まで熟知しているから、牛の鳴き声がオリジナル・ミックスと違っていたら気が付くだろうと心配だったんです。アンディは ”牛なんか心配するな” と言ってくれましたが。デュークスのレコーディングはライブだったから、結局完全に同じ牛の鳴き声は見つからず、似ているものがあったのでそれを使いました。デュークスはもの凄い量の音が入っていて、これはもう”ギフト”。素晴らしい。5.1はデュークスのようなサウンドのために作られたようなものです。

 

予定されていた『アップルヴィーナス』(以降『AV』)の5.1化は残念ながらあまりにも多くのトラックが紛失しています。絶対に出来ないとは言わないけれど。レコードは最近の物であればあるほどエレメントを探し出すことが困難。60〜80年代では2インチテープに全てのエレメントを録音してました。90年代ではクリック・トラック、MIDIトラックからライブでやっていて、テープに入れることはしていなかった。シーケンス等からライブでやってるものもあり、そこから多くのものが紛失しています。21世紀になると、『AV』は99年のレコーディングだから使ったのは初代デジタルマシーン。あれは毎日エクサバイトテープにバックアップされていたんです。ご存じか分かりませんがエクサバイトは本当に最悪の形式なんです。DATテープみたいなもの。5年後とかには再生出来なくなる。自分の持ってるエクサバイトテープに録音したデータも今では再生不可能。

 

とにかく現在『AV』に関してはハードディスクのエクサバイトADATテープからのセッションをリストアしようとしています。ボーカル・トラックが無い曲、リードボーカル・トラックが無い曲、オーバーダブのパーカッションが無い曲など、多くが紛失している。これらのエレメントがどこにあるのか誰も知らない始末です。『AV』のサラウンドは最高のサウンドになるはずなのに。苛立っていますよ。

 

以前は各楽器のサウンドを抽出するソフトウェア”ペンティア(?)”を使っていました。マルチトラックが無い場合にオリジナルのステレオをこのプラグインに通して疑似サラウンドの印象を作るんです。本物のサラウンドと同じではないが、少なくとも臨場感は出せる。最近使われているのはIzotopeのMusic Rebalanceで、これは素晴らしい。ステレオ・トラックで再生出来てドラム、ベース、ボーカル、その他を分離出来るんです。4つのコンポーネントに分けることが出来る。でもこれは究極の”人工物”です。デジタルな人工物であり、決して理想的なやり方ではないですからね。ステレオ・ミックスがあって、そのドラム・サウンドがちょっとデカすぎるから抑えたい場合には使えますが。このソフトがやることはフォレンジック分析をして楽器を分離するんです。でも考えてみれば、リードボーカルをどうやって、他の楽器から完全に分離させられる?不可能でしょ。素晴らしいソフトですが。『AV』に関してはこのソフトを使ってもサラウンドは上手くいかないですよ。