XTC Best Band Ever

XTC is the best band ever. Period.

サラウンド・サウンドの天才スティーブン・ウィルソンの最新インタビュー#2「アップルヴィーナスの多くのトラックが紛失中で5.1化が困難な状況」「O&Lみたいな音を業界ではコカイン・ミックスと呼ぶ。キンキン耳につく音をリミックスで改善出来たのは誇り」「強固なファンベースの悩みは前のアルバム路線を望まれること」

ティーブン・ウィルソンが語る#2 9.3.2021

XTCリミックスについて (かいつまみ和訳)

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#1はこちら👇

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ファンの大多数は最初に足を踏み入れたアルバムの世界で受けた衝撃や感動を永遠に再体験したいと望む。つまりアルバムは同じで、歌詞を変えて、メロディをいくつか変えて——そんなアルバムをほしがる。強固なファンベースを持つアーチストに内在する悩みです。

 

XTCのサラウンドはずっとやりたかった。APE HOUSEに連絡してアンディを説得するため、自分のスタジオに呼んでXTCの「コンプリケイテッド・ゲーム」と「メイキング・プランズ・フォー・ナイジェル」をサラウンドにしたものを聴かせたんです。「コンプリケイテッド・ゲーム」を聴いたアンディは非常に興奮して”これは全アルバムをやろう!”と宣言してくれた。元々センス良く作られた音楽を突然三次元に変換して聴かせたら誰でも普通は気に入っちゃいますよ。

 

XTCというバンドは一枚のアルバムには、もう一枚違うアルバムを作れるくらいの曲が付随しています。例として、まだテープが見つかっていないのでサラウンドにされてないアルバムに『ママー』がありますが、このアルバムにはボーナストラックやシングルB面集があり、これがまた全部『ママー』に収録された曲と同じくらいに良いんですよ。「デザート・アイランド」、「トイズ」、「ジャンプ」、「ゴールド」どれも素晴らしい。テープを入手したらこれらの曲を全部入れて『ママー』をダブルアルバムにしたい。あるべき姿だからです。それがXTCの素晴らしい所。アルバムだけでなく、ボーナストラックやB面等、XTCの音楽全てがバンドの歴史の各時期に関連しています。アンディの曲は勿論素晴らしいけど、コリンの曲も悪くないですよ。彼の曲はB面に良く入ってる。

 

『ママー』は最初に聴いたXTCのアルバムだったのでお気に入り。XTCは一枚だけ選ぶのは難しいですよね。優れたアルバムが多すぎて。各アルバムが各々独立した世界なんです。とても独特の世界。各アルバムが独自の性格を持っています。僕も自分の音楽キャリアにそのような哲学を取り入れたいです。でも逆にその哲学こそがXTCファンを苛立たせる要因になんですね。好きなバンドにどんどん変貌して成長して欲しいと願うファンは少数派。大多数は前と同じ路線のアルバムを望む。強固な熱烈ファンベースを持つ弊害の1つです。ファンは特定の音楽の世界へ足を踏み入れるんです。例えば、『ドラムス&ワイヤーズ』の世界、『スカイラーキング』の世界、あるいは『オレンジズ・アンド・レモンズ』の世界、そんな素晴らしい音楽の世界へと足を踏み入れるわけです。そして大多数はそこで最初に味わった衝撃や感動を永遠に再体験したいと望むわけです。

 

同じアルバムだけど、歌詞を変えて、いくつかメロディも変えて——そんなアルバムをファンはほしがる。ファンベースを持つアーチストに内在する悩みです。自分も同じ苦労があります。僕のファンも同じものを何度も繰り返して欲しいんです。でも僕はXTC、ザッパ、ケイト・ブッシュニール・ヤングのようなアーチストからインスピレーションをもらっている。彼らは毎回新しいアルバムで “あれはもうやった”、”これももうやった”、”何か全く違うことをやろう!” って。ボウイがそのポスターチャイルドですよね。本当に難しい問題です。変化し続けるのは、あまりにも代償が大きい。XTCは大きな代償を払うはめになりました。商業的な損失。ひとつひとつのアルバムで毎回自分たちを作り変えて行ったから。

 

みんな忘れているけど、ボウイだってそんなにレコードを売っていなんです。同時代のエルトン・ジョンマーク・ボランと比べてボウイは変化を続けたから。XTCも同じ。変化し続けた。そこが好きだったし、僕と同じようなファンもそういうところが好きだったんです。でも商業的に大きな代償を払ったのは事実。

 

大好きな音楽をサラウンドにしています。とても骨の折れる作業なんですが、XTCのサラウンドだって大ヒットするわけではない。でも、熱狂的ファンベースが十分存在するし、新しい世代のオーディオマニアも魅了されています。多分、僕の5.1サラウンドはリリースされると、世界で約5千人が聴くと思っています。自分はそれで十分。そんなファンベースがない場合、5.1にしたところで聴いてくれるのはせいぜい200人程度。200人くらいしか聴いてもらえないのにこんな大変な作業はしたくないです。

 

さっきリミックス作業は危なっかしい綱渡りだって言いましたが、僕だけでなく、関係者一同、”これはサウンド改善が出来るぞ” と意見一致したアルバムもあります。『オレンジズ・アンド・レモンズ』(以降『O&L』)がそれ。僕が手がけたアルバムには元の制作時に何らかの事情で品質上の妥協が見られる作品があるんです。『O&L』は89年の作品。いかにも80年代サウンド。こういうサウンドを業界では"コカイン・ミックス”と呼んでるんです(笑)。決してプロデューサーのポール・フォックスがコカインやってたと言ってるわけじゃない。時々、トレブル(高音)を上げ過ぎて高域がキンキン耳につくアルバムがあるんです。それが コカイン・ミックスなんです。コカインをやると —— 自分はやったことないので分かりませんが —— どうやら何でもかんでもピッカピカに明るくギンギンにエキサイティングなサウンドにしたくなっちゃうようなんです。それでトレブルをどんどん上げちゃう...。”ドラムにもっとトレブル!!”、”ボーカルにもっとトレブル!!”。これがコカイン・ミックス。

 

コカインをやるととにかく何でもいいからスリルが欲しい。それでトレブルをエスカレートさせてしまう。エキサイティングに聞こえるからです。耳障りになるほどエスカレートさせちゃう。コカイン無しだととても耳に痛いサウンド。決して、『O&L』がコカイン・ミックスだとは断定しませんが、聴く度に高音域がなんとなくちょっと不快、ちょっと明る過ぎ、ちょっと甲高いと感じて。アンディもデイブ・グレゴリーも同じ事を言っていました。更に残念ながらCD時代のリマスターがこの問題を悪化させてしまった...。それでリミックスの際にこの高音域を抑えようと思ったんです。楽器のいくつかに中音域のトーンを見つけてみようと。本当はもっと抑えたかったけど、何度も言うようにオリジナルのサウンドがガラッと変わってしまうのを恐れて控えめにやりました。『O&L』のリミックスでみんながXTCから連想するようなトーンと温かいサウンドへと改善させようとしました。

 

(『O&L』の”甲高い”サウンドは80年代の当時の録音技術、録音器に原因があると思うか?という質問に対して)次の事実が無ければ "Yes"と回答したかもしれません。『アップル・ヴィーナス』は素晴らしくオーガニックで温かいサウンドのレコードですが、実は録音はデジタル・システムで44.1kHz/16bit CDレゾルーションでされており、それでも美しいサウンドに仕上がっています。ティアーズ・フォー・フィアーズの『シーズ・オブ・ラブ』も超初期デジタルマシーンで16bitで録音されていますが、『O&L』のような甲高さはありません。でも、確かに初期の録音技術、特に16bit、44.1kHz、48kHzのような低解像は良いサウンドを作る上で助けにはなっていなかったね。

 

毎回5.1サラウンドミックスパッケージに含まれるステレオ・リミックスは、サラウンドを作る過程で発生した副産物と言える。決して意図して作ったものではないんです。当初、サラウンドミックスのプロセスを始めた時、最初のタスクはステレオ・ミックスを作り直すことでした。限りなくオリジナルに近く、限りなくオリジナルに忠実に。そうすることで、5.1の作業で曲を解体する時には既に正しいバランス、EQ、リバーブ、プロセッシングが全てが用意されているんです。だからステレオ・ミックスを再成することに全集中を傾けました。後でアーチストと一緒にオリジナル・ミックスと比較してステレオ・ミックスを作り直すプロセスにメリットを感じた。それで毎回サラウンド・ミックスにボーナスとしてステレオ・リミックスを入れ始めたんです。ファンも非常に気に入ってくれて、それでインストも入れることにしました。アレンジの複雑さを聴くことが出来ます。インストを作るのは凄く簡単。ボーカル無しにするだけ。

 

自分で言うのもなんですが、ステレオ・リミックスはオリジナルから漸進的に改善出来た時もありますし、オリジナルには足元にも及ばない時もあります。ティアーズ・フォー・フィアーズの『シーズ・オブ・ラブ』は上手くいかなかったのでレコード会社に自分のステレオ・リミックスはリリースしないようにと頼みました。XTCのシリーズでは上手くいっています。アンディも僕のリミックスの中にはオリジナルより優れたものがあると言ってくれてます。そう思わない方は何よりもオリジナル・ミックスがパッケージに含まれてますから、そちらを聴いていただけます。ステレオ・リミックスで最も大きく改善出来たアルバムはやはり『O&L』ですね。80年代風デジタルなサウンドをリミックスによって温かい音に改善出来たのは誇りです。

 

最もクリエイティブに出来た5.1はデュークス・オブ・ストラトスフィア。あのようなアルバム(60年代サイケデリックポップグループのオマージュ・パロディ)の場合、自分の周囲を色んな物が飛び交うみたいな悪趣味——あるいは良い趣味と言っていいのか———の領域で出来ることに限界は無いんです。『25オクロック』のステレオ・ミックスではステレオのイメージが丸ごと反転する部分があるんですけど、それをサラウンドにした途端、部屋のフロントにある全てのものが部屋のバックに反転しちゃうんです。そんなギミックは通常のサラウンドではさせてもらえないけど、このアルバムは例外だったんです。

 

デュークスを5.1にするのは心配ではありました。プロジェクトに取りかかる前にプロデューサーのジョン・レッキーに何回か会いに行きましたよ。レッキーに「あれは難しいよ。ライブでミックスに色んな物を投入したから」と言われました。彼は16トラックからミキシングをして、ステレオ・マスターにバウンスダウンした時も家畜の鳴き声などをライブでミックスしていたんですよ。例えば、『モール・フロム・ミニストリー』の牛の鳴き声が同じではない。サウンド・エフェクト・ライブラリーで牛や他の物を探しましたよ。

 

さっきも言いましたが、XTCのファンはXTCの音楽に傾倒しており隅々まで熟知しているから、牛の鳴き声がオリジナル・ミックスと違っていたら気が付くだろうと心配だったんです。アンディは ”牛なんか心配するな” と言ってくれましたが。デュークスのレコーディングはライブだったから、結局完全に同じ牛の鳴き声は見つからず、似ているものがあったのでそれを使いました。デュークスはもの凄い量の音が入っていて、これはもう”ギフト”。素晴らしい。5.1はデュークスのようなサウンドのために作られたようなものです。

 

予定されていた『アップルヴィーナス』(以降『AV』)の5.1化は残念ながらあまりにも多くのトラックが紛失しています。絶対に出来ないとは言わないけれど。レコードは最近の物であればあるほどエレメントを探し出すことが困難。60〜80年代では2インチテープに全てのエレメントを録音してました。90年代ではクリック・トラック、MIDIトラックからライブでやっていて、テープに入れることはしていなかった。シーケンス等からライブでやってるものもあり、そこから多くのものが紛失しています。21世紀になると、『AV』は99年のレコーディングだから使ったのは初代デジタルマシーン。あれは毎日エクサバイトテープにバックアップされていたんです。ご存じか分かりませんがエクサバイトは本当に最悪の形式なんです。DATテープみたいなもの。5年後とかには再生出来なくなる。自分の持ってるエクサバイトテープに録音したデータも今では再生不可能。

 

とにかく現在『AV』に関してはハードディスクのエクサバイトADATテープからのセッションをリストアしようとしています。ボーカル・トラックが無い曲、リードボーカル・トラックが無い曲、オーバーダブのパーカッションが無い曲など、多くが紛失している。これらのエレメントがどこにあるのか誰も知らない始末です。『AV』のサラウンドは最高のサウンドになるはずなのに。苛立っていますよ。

 

以前は各楽器のサウンドを抽出するソフトウェア”ペンティア(?)”を使っていました。マルチトラックが無い場合にオリジナルのステレオをこのプラグインに通して疑似サラウンドの印象を作るんです。本物のサラウンドと同じではないが、少なくとも臨場感は出せる。最近使われているのはIzotopeのMusic Rebalanceで、これは素晴らしい。ステレオ・トラックで再生出来てドラム、ベース、ボーカル、その他を分離出来るんです。4つのコンポーネントに分けることが出来る。でもこれは究極の”人工物”です。デジタルな人工物であり、決して理想的なやり方ではないですからね。ステレオ・ミックスがあって、そのドラム・サウンドがちょっとデカすぎるから抑えたい場合には使えますが。このソフトがやることはフォレンジック分析をして楽器を分離するんです。でも考えてみれば、リードボーカルをどうやって、他の楽器から完全に分離させられる?不可能でしょ。素晴らしいソフトですが。『AV』に関してはこのソフトを使ってもサラウンドは上手くいかないですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラウンド・サウンドの天才スティーブン・ウィルソンの最新インタビュー#1「XTCはちょっと聴くと凄いシンプルだなと思うがそれは錯覚。アレンジ、レイヤーの方法等非常に複雑で洗練されてる」、「上には上のXTCオタクがいる。サラウンドでXTCの音楽を知り尽くした熟練ファンをハッピーにさせたい」

ティーブン・ウィルソンが語る 9.3.2021

XTCリミックスについて (かいつまみ和訳)

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上には上のXTCオタクがいる。僕やXTCメンバーよりもXTCの音楽を身体の一部のごとく知り尽くしている。彼らをハッピーにさせること。それが僕の指標。

長い間愛されてきた名作アルバムというのはファンにとって"聖典”。それに手を入れるのはもの凄い責任です。バンドの熟練ファンに対してリミックスするからです。僕のリミックスの購入者の中にはこれをきっかけにバンドを聴き始める新参ファンもいるけど、あくまで少数派。大多数は少なくとも同じアルバムを異なるエディションで3回は買っているような長年の熟練ファン。例えば、1979年に出たオリジナルのビニール盤を買って、次に初のCDエディションを買って、その後ボーナストラック付きのリマスターCDエディションを買って、みたいな。そして今後はデモ付きのサラウンド・エディションが出るから買う。だから僕のリミックスはそんなバンドの音楽を知悉した熟練ファンを対象に作っているんです。

 

実はアーチストってみんなが思うより自分の作品を聴かないもんなんです。アンディにしろ、テアーズ・フォー・フィアーズのローランドにしろ、クリムゾンのフリップにしろ、そんなもん。30年間とか40年間自分のレコードを聴いてないというアーチストに何度も遭遇してますよ。実は僕もアルバム作ったらウンザリして二度と聴きたくない。アンディも、コリンも同じ。つまり僕の作る5.1ミックスとステレオ・リミックスのBlu-ray/DVDを買おうとしているファンはアーチストより、僕より、よっぽどそのアルバムを知っているってことです。

 

僕もファンだけど、それに輪を掛けたマニアックなファンが必ず存在するんですよ。”よし、正しく作れたぞ”と思ってサラウンド&リミックスがリリースされる。早速、アマゾン・レビューを覗く。すると、”スティーブン・ウィルソンはこのアルバムを台無しにした!元のミックスのハイハットはもう少し右寄りに配置されていたぞ!”(笑)、そして、”何故、スティーブンはそんなことに気が付かなかったんだ?”(笑)とか書かれてるんですよ。

 

自分はそのバンドのオタクだと思っているが、必ず上には上のオタクがいるもんなんです。これが僕のベンチマーキング。この人達をハッピーにしたいんです。だから常に細かい所まで見逃さないように粉骨砕身してるんです。例えば、ボーカルの歌のたったひとつの言葉に掛けられたほんの小さなリバーブが曲中に一カ所だけあるのを見逃さないとか、コーラス部の一カ所でハイハットがステレオ・スペクトラムでわずかに左寄りに移動するとか。サラウンド制作を開始する前にまずはオリジナル・ステレオミックスフォレンジック分析みたいのをやるんで。

 

サラウンドに取りかかる前に考えるのは、”常に内在する逆説”です。つまり、ファンが欲しいのは同じものだが、違うように聞こえるものが欲しい。そういう矛盾。サラウンド作業は脆い綱で危なっかしい綱渡りをするようなものです。僕は音楽を変えようとはしません。だって、ファンは数十年そのアルバムを聴いていて、身体の一部のごとく熟知しているんですよ。違和感を感じさせるものは欲しくないんです。異なるボーカルテイクを使ってるとか、ギターにリバーブを掛け過ぎとか。同時に熟練ファンはアルバムを知悉しているものの、そのアルバムの音に包囲されて聴くのは新しい体験となるはず。だから、オリジナルのミックスをどこも変えずに三次元の世界に移動させるという試みなんです。何百回も聴いている人が聴くものだからね、耳に慣れているものを取り去るのは物議を醸すものなんですよ。

 

ティアーズ・フォー・フィアーズの『シーズ・オブ・ラブ』のサラウンドはファンは”サラウンドにしたら凄い音になるぞ”と高い期待をしていたが、実際は少々期待外れだったというファンがいる事に関して)なんと説明したら良いのか...。リミックスが難しいのは、出来ないことについて先に謝っておくことが出来ないところ。例えば、タンジェリン・ドリームの『フェードラ』は大好きなアルバムですが、誰もがこれはサラウンド・サウンドミックスでとてつもない凄い音になるぞと思ったんです。ところがマルチトラックを手にして気が付いたのは、A面のこの長い曲のほとんど全てが3つのモノチャンネルで録音されていたんです!こうなると出来ることは何もないですよ。ステレオで聴くとなんだかもの凄い量のレイヤーやあらゆる素晴らしい音がぎっしり詰まっているように聞こえるんですが、実際は演奏したのはたったの3人、ひとつのモノトラックにミックスしただけ。だからみんながもの凄い期待をしたものの、僕に出来ることはあまりなかったんです。ティアーズ・フォー・フィアーズの『シーズ・オブ・ラブ』に関しては、「Woman In Chain 」のドラムのマルチトラックが見つからなかったりして。ステレオだけだったんです。

(翻訳者注:ファンの中にはサラウンドミックスでは「シーズンス・オブ・ラブ」のトラックのメイン・ボーカルの存在感が薄くなってる等の苦情もある。)

 

デュークス・オブ・ストラトスフィアのサラウンドミックス作業は楽しかったですね。かなり派手にやりました。デュークスこそサラウンドにぴったりの音楽ですから。フレーミング・リップスは聴いたこと無いですが、同じようにサラウンドに合うと思います。例えば、ニール・ヤングはもっとオーガニックだからサラウンドみたいなギミックぽいのは合わないと思う。

 

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サラウンド作りで重要なのは音同士を繋いでいる”接着剤”を全部取り除かないこと。サラウンドを作ってると陥りやすいんです。例として、ひとつのスピーカー、あるいはひとつのチャンネルに目立たないように慎重に物を配置していくんですが、すると突然、一体感を持たせるために音を繋げていた接着剤が消えてしまうんです。1つのコーナーにドラマー、そしてもう一つのコーナーにベースプレーヤーみたいになっちゃう。例えば、良くビートルズは今でもモノで聴くのがベストだと言います。モノのビートルズの音には一体感があるからと。それと同じ考えですよ。それがサラウンド作業上の大きなリスクです。音のまとまり感を出すために繋いでいる糸が解けてしまうリスク。そのために音の調和の損失という結果になってしまうんです。ファンはそれに気が付かないことがありますがね。

 

サラウンドを5.1からAtmosに移行したいと思っています。Atmosはもう全く次元が違う。スピーカーが頭上に位置しているんです。Atmosのサラウンドを作る場合は5.1よりもっと派手にに作るべきだという人もいるし、アンビエンスとして使うべきだという人もいます。今、今後のXTCのサラウンドに使うためアンディを説得しようとしているところです。

 

マルチトラックテープを数千人に渡せば、数千個の異なるミックスが出来ます。つまり自分に出来ることは自分が良いと思ったようにミックスを作ること。幸運なことにこれまでのサラウンド作品はファンに結構共感してもらえています。勿論、中には”期待外れだった”と言う人もいます。”もっと大胆にやってほしい”とか、逆に”ちょっとやり過ぎ”という両極端の声があります。2つの真逆の意見の数が同じくらいだから、自分としてはちょうど良いバランスでは?と思っています。

 

レコーディングのゴールは”リアリズム”ではないというアーチストばかりと一緒に仕事が出来たのは運が良かったですね。AC/DCだとライブで聴くサウンドがそのままレコードのサウンドだけど、XTC等は違う。XTCの初期のレコードはそうだったかもしれないが、後期のレコードが示しているのはスタジオを活用することで生まれる”数々の素晴らしい可能性”なんです。それはビートルズが辿った音楽キャリアと全く同じ。ビートルズは4人組のロックンロールバンドで始まり、壮大なプロダクションを生むようなバンドへと変貌していきました。XTCがライブツアーを止めた時、スタジオをもう一つの楽器として活用始めたんです。クリムゾンもタンジェリン・ドリームも同じ。リアリズムに拘っていない。彼らはスタジオ内でしか実現出来ないテクニックを駆使しているんです。

 

だから、そのようなアーチストのアルバムをリミックスをする時はそのアーチスト達より更に自分も創造的になることが要求されるんです。現実にはギター・ソロが自分の周囲を鳴らし巡ることはあり得ない。でも、それって最高のサウンドじゃないですか。そのようなサウンド・デザインのアプローチを駆使出来るアーチストと仕事が出来て本当に嬉しいです。

 

XTCの凄さはちょっと聴くと凄いシンプルだなと思わせるんだけど、実はそれは錯覚。その複雑さときたらもの凄いですよ。音楽性ではなく、アレンジ、レイヤーの方法、それらが非常に洗練されているんです。XTCのどのアルバムも解体して再構築することで凄く学びました。何をやってるのか知るために学ぶ必要があったんです。アーチストの多くは”どうやってこれをやったの?”と質問しても”覚えてないなあ”と言う人が多いんです。だから、彼らがどうやってやったのかは自分で学ぶしかないんです。アンディは良く覚えてますがね。でもそのおかげで自分だけのテクニックの”道具箱”が出来上がって、それを自分の音楽だけでなく、今後のリミックスにも使えるんです。

 

デュークスのフェージング・エフェクトの作り方については、オリジナルがテープのため、作業を始める前にやったのは市場に出ている全てのフェーズ・プラグインを買いました。20個くらい。全部を聞いてみて最もそれっぽいものが見つかったんです。

 

サラウンドミックス作りのためにアルバムを解体して再構築した後は前よりそのアルバムへの敬意が高まりますね。でも(作業中死ぬほど聴いてウンザリしたから)二度と聴きたくない!(笑)それだけが残念だけど。10年経ったら聴きたくなるかも。でも毎回必ずそのアルバムへの敬意が高まりますよ。というのも、普通に聴いてれば、ただ素晴らしいポップソングだなと思うだけだけど、そのアルバムを解体して全ての創造的な決断を分析するんですが、ただリスナーとしてアルバムを聴いてるだけでは考えもしないような創造的な決断が聞こえてくるんですよ。スネアドラムにEQをしたとか、ベースはギターにきっちり沿って弾いていないとか、これは特にXTCにありがちな決断です。あとは、2つのギターパートが連動するところや、バッキングボーカル・ハーモニーの構築の方法とか、ストリングスのアレンジとか。そういう決断が聞こえてくるんです。

 

5.1サラウンドを聴いて今まで聞こえなかった音が聞こえる。ステレオミックスでは活かせなかった音が5.1だと聞こえる、ファンがそう言ってくれてます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2006年のアンディ・パートリッジのインタビュー「僕の音楽がイギリス臭いのは自分がイギリス人だから。アメリカ風の音楽をやってもイギリス臭くなる。歌詞はノスタルジックなイギリスを描くことが多い」「ノスタルジアとは老人用のヘロインだ。それは危険かもね」

https://www.pastemagazine.com/music/xtcs-andy-partridge/

 

”僕の歌詞はノスタルジックな”イングランド”の光景が多い。”人の手の入っていない素のイギリスというのは驚くほど美しい。”

2006年 アンディ・パートリッジのインタビュー

「僕の歌詞の作り方は音を聴いて、その音がどのような音なのか歌詞で表現しようとする」とパートリッジは語る。「コードをかき鳴らして、"これは卵の殻のような滑らかな音だな”とか思っていきなり卵の歌を書くんですよ。”このコードは土のような音だ"と感じれば、突然”イースター・シアター”が出来上がる」

 

往々にして、パートリッジが歌詞で表現するのはずばり”イングランド”だ。

 

パートリッジの描く“イングランド”とは、ポール・マッカートニーの”ペニー・レイン”のロータリー(環状交差点)や郊外の青い空ではないし、レイ・デイヴィスの”ウォータールー・サンセット”のような霧に包まれた地下鉄の駅でもない。パートリッジの歌はたいてい、なだらかな丘陵地帯、収穫祭(ハーベスト・フェスティバル)、中世初期のイギリス居住地(イングランド・セトルメント)といった異教的な英国にある。

 

「現在のイギリスというよりも、自分がこうあってほしいと思うイギリスというのが僕の歌詞の常なるパターンだと思います。人の手の入っていない素のイギリスというのは、もう信じられないほど美しいから。現代のイギリスについては、特に魅力的に思う点はないなあ。高速道路と携帯電話の電波塔とマクドナルドがあるだけ。きっとノスタルジーなんでしょうね」

 

「誰かが言ってたんですよ、ノスタルジアとは老人用のヘロインだって。30歳を過ぎた頃からそのヘロイン常用者になって、うとうととノスタルジックな至福に浸ってしまうんです。それって危険かもね。でも、僕の音楽がイギリス臭いのは僕がイギリス人だからですよ。いわゆる輸入されたアメリカ風の音楽を扱っても、それが自分の腸を通っていくと、どちらかというとイギリス臭い音楽となって現れるんです」

 

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