XTC Best Band Ever

XTC is the best band ever. Period.

サラウンド・サウンドの天才スティーブン・ウィルソンの最新インタビュー#1「XTCはちょっと聴くと凄いシンプルだなと思うがそれは錯覚。アレンジ、レイヤーの方法等非常に複雑で洗練されてる」、「上には上のXTCオタクがいる。サラウンドでXTCの音楽を知り尽くした熟練ファンをハッピーにさせたい」

ティーブン・ウィルソンが語る 9.3.2021

XTCリミックスについて (かいつまみ和訳)

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上には上のXTCオタクがいる。僕やXTCメンバーよりもXTCの音楽を身体の一部のごとく知り尽くしている。彼らをハッピーにさせること。それが僕の指標。

長い間愛されてきた名作アルバムというのはファンにとって"聖典”。それに手を入れるのはもの凄い責任です。バンドの熟練ファンに対してリミックスするからです。僕のリミックスの購入者の中にはこれをきっかけにバンドを聴き始める新参ファンもいるけど、あくまで少数派。大多数は少なくとも同じアルバムを異なるエディションで3回は買っているような長年の熟練ファン。例えば、1979年に出たオリジナルのビニール盤を買って、次に初のCDエディションを買って、その後ボーナストラック付きのリマスターCDエディションを買って、みたいな。そして今後はデモ付きのサラウンド・エディションが出るから買う。だから僕のリミックスはそんなバンドの音楽を知悉した熟練ファンを対象に作っているんです。

 

実はアーチストってみんなが思うより自分の作品を聴かないもんなんです。アンディにしろ、テアーズ・フォー・フィアーズのローランドにしろ、クリムゾンのフリップにしろ、そんなもん。30年間とか40年間自分のレコードを聴いてないというアーチストに何度も遭遇してますよ。実は僕もアルバム作ったらウンザリして二度と聴きたくない。アンディも、コリンも同じ。つまり僕の作る5.1ミックスとステレオ・リミックスのBlu-ray/DVDを買おうとしているファンはアーチストより、僕より、よっぽどそのアルバムを知っているってことです。

 

僕もファンだけど、それに輪を掛けたマニアックなファンが必ず存在するんですよ。”よし、正しく作れたぞ”と思ってサラウンド&リミックスがリリースされる。早速、アマゾン・レビューを覗く。すると、”スティーブン・ウィルソンはこのアルバムを台無しにした!元のミックスのハイハットはもう少し右寄りに配置されていたぞ!”(笑)、そして、”何故、スティーブンはそんなことに気が付かなかったんだ?”(笑)とか書かれてるんですよ。

 

自分はそのバンドのオタクだと思っているが、必ず上には上のオタクがいるもんなんです。これが僕のベンチマーキング。この人達をハッピーにしたいんです。だから常に細かい所まで見逃さないように粉骨砕身してるんです。例えば、ボーカルの歌のたったひとつの言葉に掛けられたほんの小さなリバーブが曲中に一カ所だけあるのを見逃さないとか、コーラス部の一カ所でハイハットがステレオ・スペクトラムでわずかに左寄りに移動するとか。サラウンド制作を開始する前にまずはオリジナル・ステレオミックスフォレンジック分析みたいのをやるんで。

 

サラウンドに取りかかる前に考えるのは、”常に内在する逆説”です。つまり、ファンが欲しいのは同じものだが、違うように聞こえるものが欲しい。そういう矛盾。サラウンド作業は脆い綱で危なっかしい綱渡りをするようなものです。僕は音楽を変えようとはしません。だって、ファンは数十年そのアルバムを聴いていて、身体の一部のごとく熟知しているんですよ。違和感を感じさせるものは欲しくないんです。異なるボーカルテイクを使ってるとか、ギターにリバーブを掛け過ぎとか。同時に熟練ファンはアルバムを知悉しているものの、そのアルバムの音に包囲されて聴くのは新しい体験となるはず。だから、オリジナルのミックスをどこも変えずに三次元の世界に移動させるという試みなんです。何百回も聴いている人が聴くものだからね、耳に慣れているものを取り去るのは物議を醸すものなんですよ。

 

ティアーズ・フォー・フィアーズの『シーズ・オブ・ラブ』のサラウンドはファンは”サラウンドにしたら凄い音になるぞ”と高い期待をしていたが、実際は少々期待外れだったというファンがいる事に関して)なんと説明したら良いのか...。リミックスが難しいのは、出来ないことについて先に謝っておくことが出来ないところ。例えば、タンジェリン・ドリームの『フェードラ』は大好きなアルバムですが、誰もがこれはサラウンド・サウンドミックスでとてつもない凄い音になるぞと思ったんです。ところがマルチトラックを手にして気が付いたのは、A面のこの長い曲のほとんど全てが3つのモノチャンネルで録音されていたんです!こうなると出来ることは何もないですよ。ステレオで聴くとなんだかもの凄い量のレイヤーやあらゆる素晴らしい音がぎっしり詰まっているように聞こえるんですが、実際は演奏したのはたったの3人、ひとつのモノトラックにミックスしただけ。だからみんながもの凄い期待をしたものの、僕に出来ることはあまりなかったんです。ティアーズ・フォー・フィアーズの『シーズ・オブ・ラブ』に関しては、「Woman In Chain 」のドラムのマルチトラックが見つからなかったりして。ステレオだけだったんです。

(翻訳者注:ファンの中にはサラウンドミックスでは「シーズンス・オブ・ラブ」のトラックのメイン・ボーカルの存在感が薄くなってる等の苦情もある。)

 

デュークス・オブ・ストラトスフィアのサラウンドミックス作業は楽しかったですね。かなり派手にやりました。デュークスこそサラウンドにぴったりの音楽ですから。フレーミング・リップスは聴いたこと無いですが、同じようにサラウンドに合うと思います。例えば、ニール・ヤングはもっとオーガニックだからサラウンドみたいなギミックぽいのは合わないと思う。

 

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サラウンド作りで重要なのは音同士を繋いでいる”接着剤”を全部取り除かないこと。サラウンドを作ってると陥りやすいんです。例として、ひとつのスピーカー、あるいはひとつのチャンネルに目立たないように慎重に物を配置していくんですが、すると突然、一体感を持たせるために音を繋げていた接着剤が消えてしまうんです。1つのコーナーにドラマー、そしてもう一つのコーナーにベースプレーヤーみたいになっちゃう。例えば、良くビートルズは今でもモノで聴くのがベストだと言います。モノのビートルズの音には一体感があるからと。それと同じ考えですよ。それがサラウンド作業上の大きなリスクです。音のまとまり感を出すために繋いでいる糸が解けてしまうリスク。そのために音の調和の損失という結果になってしまうんです。ファンはそれに気が付かないことがありますがね。

 

サラウンドを5.1からAtmosに移行したいと思っています。Atmosはもう全く次元が違う。スピーカーが頭上に位置しているんです。Atmosのサラウンドを作る場合は5.1よりもっと派手にに作るべきだという人もいるし、アンビエンスとして使うべきだという人もいます。今、今後のXTCのサラウンドに使うためアンディを説得しようとしているところです。

 

マルチトラックテープを数千人に渡せば、数千個の異なるミックスが出来ます。つまり自分に出来ることは自分が良いと思ったようにミックスを作ること。幸運なことにこれまでのサラウンド作品はファンに結構共感してもらえています。勿論、中には”期待外れだった”と言う人もいます。”もっと大胆にやってほしい”とか、逆に”ちょっとやり過ぎ”という両極端の声があります。2つの真逆の意見の数が同じくらいだから、自分としてはちょうど良いバランスでは?と思っています。

 

レコーディングのゴールは”リアリズム”ではないというアーチストばかりと一緒に仕事が出来たのは運が良かったですね。AC/DCだとライブで聴くサウンドがそのままレコードのサウンドだけど、XTC等は違う。XTCの初期のレコードはそうだったかもしれないが、後期のレコードが示しているのはスタジオを活用することで生まれる”数々の素晴らしい可能性”なんです。それはビートルズが辿った音楽キャリアと全く同じ。ビートルズは4人組のロックンロールバンドで始まり、壮大なプロダクションを生むようなバンドへと変貌していきました。XTCがライブツアーを止めた時、スタジオをもう一つの楽器として活用始めたんです。クリムゾンもタンジェリン・ドリームも同じ。リアリズムに拘っていない。彼らはスタジオ内でしか実現出来ないテクニックを駆使しているんです。

 

だから、そのようなアーチストのアルバムをリミックスをする時はそのアーチスト達より更に自分も創造的になることが要求されるんです。現実にはギター・ソロが自分の周囲を鳴らし巡ることはあり得ない。でも、それって最高のサウンドじゃないですか。そのようなサウンド・デザインのアプローチを駆使出来るアーチストと仕事が出来て本当に嬉しいです。

 

XTCの凄さはちょっと聴くと凄いシンプルだなと思わせるんだけど、実はそれは錯覚。その複雑さときたらもの凄いですよ。音楽性ではなく、アレンジ、レイヤーの方法、それらが非常に洗練されているんです。XTCのどのアルバムも解体して再構築することで凄く学びました。何をやってるのか知るために学ぶ必要があったんです。アーチストの多くは”どうやってこれをやったの?”と質問しても”覚えてないなあ”と言う人が多いんです。だから、彼らがどうやってやったのかは自分で学ぶしかないんです。アンディは良く覚えてますがね。でもそのおかげで自分だけのテクニックの”道具箱”が出来上がって、それを自分の音楽だけでなく、今後のリミックスにも使えるんです。

 

デュークスのフェージング・エフェクトの作り方については、オリジナルがテープのため、作業を始める前にやったのは市場に出ている全てのフェーズ・プラグインを買いました。20個くらい。全部を聞いてみて最もそれっぽいものが見つかったんです。

 

サラウンドミックス作りのためにアルバムを解体して再構築した後は前よりそのアルバムへの敬意が高まりますね。でも(作業中死ぬほど聴いてウンザリしたから)二度と聴きたくない!(笑)それだけが残念だけど。10年経ったら聴きたくなるかも。でも毎回必ずそのアルバムへの敬意が高まりますよ。というのも、普通に聴いてれば、ただ素晴らしいポップソングだなと思うだけだけど、そのアルバムを解体して全ての創造的な決断を分析するんですが、ただリスナーとしてアルバムを聴いてるだけでは考えもしないような創造的な決断が聞こえてくるんですよ。スネアドラムにEQをしたとか、ベースはギターにきっちり沿って弾いていないとか、これは特にXTCにありがちな決断です。あとは、2つのギターパートが連動するところや、バッキングボーカル・ハーモニーの構築の方法とか、ストリングスのアレンジとか。そういう決断が聞こえてくるんです。

 

5.1サラウンドを聴いて今まで聞こえなかった音が聞こえる。ステレオミックスでは活かせなかった音が5.1だと聞こえる、ファンがそう言ってくれてます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2006年のアンディ・パートリッジのインタビュー「僕の音楽がイギリス臭いのは自分がイギリス人だから。アメリカ風の音楽をやってもイギリス臭くなる。歌詞はノスタルジックなイギリスを描くことが多い」「ノスタルジアとは老人用のヘロインだ。それは危険かもね」

https://www.pastemagazine.com/music/xtcs-andy-partridge/

 

”僕の歌詞はノスタルジックな”イングランド”の光景が多い。”人の手の入っていない素のイギリスというのは驚くほど美しい。”

2006年 アンディ・パートリッジのインタビュー

「僕の歌詞の作り方は音を聴いて、その音がどのような音なのか歌詞で表現しようとする」とパートリッジは語る。「コードをかき鳴らして、"これは卵の殻のような滑らかな音だな”とか思っていきなり卵の歌を書くんですよ。”このコードは土のような音だ"と感じれば、突然”イースター・シアター”が出来上がる」

 

往々にして、パートリッジが歌詞で表現するのはずばり”イングランド”だ。

 

パートリッジの描く“イングランド”とは、ポール・マッカートニーの”ペニー・レイン”のロータリー(環状交差点)や郊外の青い空ではないし、レイ・デイヴィスの”ウォータールー・サンセット”のような霧に包まれた地下鉄の駅でもない。パートリッジの歌はたいてい、なだらかな丘陵地帯、収穫祭(ハーベスト・フェスティバル)、中世初期のイギリス居住地(イングランド・セトルメント)といった異教的な英国にある。

 

「現在のイギリスというよりも、自分がこうあってほしいと思うイギリスというのが僕の歌詞の常なるパターンだと思います。人の手の入っていない素のイギリスというのは、もう信じられないほど美しいから。現代のイギリスについては、特に魅力的に思う点はないなあ。高速道路と携帯電話の電波塔とマクドナルドがあるだけ。きっとノスタルジーなんでしょうね」

 

「誰かが言ってたんですよ、ノスタルジアとは老人用のヘロインだって。30歳を過ぎた頃からそのヘロイン常用者になって、うとうととノスタルジックな至福に浸ってしまうんです。それって危険かもね。でも、僕の音楽がイギリス臭いのは僕がイギリス人だからですよ。いわゆる輸入されたアメリカ風の音楽を扱っても、それが自分の腸を通っていくと、どちらかというとイギリス臭い音楽となって現れるんです」

 

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スティーブン・ウィルソン To The Bone (骨の髄まで)

ティーブン・ウィルソン To The Bone (骨の髄まで)

 

歌詞 アンディ・パートリッジ

和訳 by Miko 

 

[Spoken Word]

一旦 自分たちの世界を知ったら

他人の世界を破壊したくなる

彼らの真実は私の真実とは違うから

これが問題なんだ

真実とは意図されたもの

つまり 

人はそれぞれ違った視点を持ってる

たった1つの真実など無いよね?

 

[Intro]

しっかりつかまって

下降するよ 深く

もっと下へ

フロアーを突き破って

核の部分に何があるか見たくない?

 

[Verse 1]

真実とは

私たちが口にすることを夢見る

冷たい澄んだ水の流れ

でも

微笑みの爆弾の配線を変えたら

真実は嘘つきを抹殺する

 

[Chorus 1]

つかまって 下降するよ 下へ下へ

あいつらの王座を溶かす

迷信を打ち破れ

処女 売春婦 老婆

恐れの神々の間をすり抜けて

本物の真実だけを求めて

つかまって 下へ下へ 骨の随まで

 

[Guitar solo]

 

[Verse 2]

真実とは永遠の道 馬鹿にしながらも

避けて通る道

迷い込んで自己破滅した道を

知ってると思いながら

 

[Guitar solo]