XTC Best Band Ever

XTC is the best band ever. Period.

アンディ・パートリッジ最新インタビュー「トッドはスカイラーキングのマスターテープを持っていないと言い張ったが、XTCファンの“スパイ”(笑)が撮ったトッドのスタジオの棚に映っていたのは?!」「来年から"私の失敗したクリスマスソングキャリア”、“私の失敗した図書館用ミュージックキャリア”等続々と出る」

https://open.spotify.com/show/6he7f9FnfO5ePPTpNnDGWj?si=f8bb03534f594802

 

”失敗... それは何にも代えがたいものだった。XTCにとって非常に良いことだった。僕自身に対しても”

 

アンディ・パートリッジが近況を含めXTCについて語る(収録時は今年2021年の秋頃と思われる)

ポッドキャスター/インタビュアー:ポール・マイヤーズ(カナダの作家、ジャーナリスト、ミュージシャン、ソングライター。俳優のマイク・マイヤーズのお兄さん)

 

以下、アンディの発言の要約を翻訳しました。

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:最初にアンディがポールさんへ捧げる歌をギターで即興で歌う:

 

アンディ:この年齢になって気が付いたのは、左の耳が右より悪い

 

ポール:レコード会社のトイレでばったりアンディと会ったんです。アンディに握手をして貰おうと手を差し出したら「トイレから出てやろう。ここは猫を振り回せるほど広くないからね」と言われたんです。(原語“There’s no enough room to swing a cat in here”)なんてクールな言い方かと感心しました。その後、アンディは僕にレコード会社のプロモ見本盤This World Overのポストカード付きの12インチや7インチレコードをくれたんですよね。

 

アンディ:その当時、1ヶ月後にDukes of Stratosphearがリリースされた。でも匿名バンドにする予定だったからポールには言わなかった。ヴァージンが不満だったのは、XTCはポップ性が十分でない。かといって奇妙さも足りない。僕らは当時バージンで人気があったヘブン17みたいじゃなかった。彼らのバンド名前は『時計仕掛けのオレンジ』から取られてるけど、僕がリリースした『ファジーワーブル』も『時計仕掛けのオレンジ』から取ったんだよね。“レコード”という意味。

 

『私の成功しなかった作曲キャリア』のジャケットについて、みんなから聞かれるんだけど、これはメンコのつもりなんだよ。メンコというのは日本の子供のカードゲーム。メンコはとても美しい。

このジャケットの絵は2本の指。もう一つは一本の指だから、トランプのように遊べるゲーム。メンコ一枚づつ、各曲を表現している。ポッドキャストなので見せられないが、このレコードを買えば見れるよ。今、売れ切れ中。ビニールレコードプレス工場が1年くらい遅延している。

 

二週間前にこのレコードはイギリスで売上NO1だった。67歳だぜ。67でNo.1なんてありえないだろ。このシリーズはこれからVol.2が出るし、その続きも大量に出る。

 

My Failed Songwriting Career - Volume 1 EP 

http://My Failed Songwriting Career - Volume 1 EP https://burningshed.com/andy-partridge_my-failed-songwriting-career_vinyl#.YcuHvJKvR4w.twitter

 

 

アンディ:『私の失敗したロックンロールキャリア』というタイトル等。少なくとも他人に書いた4曲のロックンロール曲がある。フィフティーズ調のロックンロールソングを書いてくれと依頼されたから。『私の失敗したクリスマスソングキャリア』は2枚分ある。一枚目は本当は今年(2021年)のクリスマス用に出す予定がレコードプレス工場の遅延のせいで出せないようなので、来年(2022年)の秋に出す。

 

更に『私の失敗した図書館用ミュージックキャリア』というのもあって、これはEP盤ではなく、アルバム盤となる。

 

ポール:これはイーノがやった空港BGMみたいな奴?

 

アンディ:アンビエントって言ったら僕にとっては侮辱だからそう呼ばない。テーマソングの真似を試みたわけ。曲を依頼した人がサッカー試合で掛かる伝統的なテーマソングに飽き飽きしてると言って、でっかいドラムサウンドのトレバーホーン風80年代テーマソングが欲しいと。”Who’s Afraid of Big Bad Beat?”という曲を作って短くしてインストにした。「疑似オペラ」だと言われてボツにされた。このような“ラブリー”なボツ曲が大量あるわけ。

 

『ホモサファリシリーズ』については、“アンビエント”という言葉は誤解されがち。ブラックサバスの音量を十分下げればアンビエントミュージックになるよ。“アンビエント”というジャンル名が大嫌い。ハロルド・バッドについては、『コニーアイランド』のドキュメンタリーの挿入曲だったXTCのサファリシリーズの「フロスト・サーカス」を誰かがハロルドに聞かせた。それで彼が気に入って僕に連絡してきた。僕らは直ぐに意気投合した。彼も“アンビエント”というジャンル名が嫌いだった。八音階の音楽の罠に落ちることはなかった。僕の『パワーズ』(2010年リリースの“エクスペリメンタル/アンビエント・ミュージック作品”と呼ばれるアルバム)もその罠に落ちなかった。

 

失敗... それは何にも代えがたいものだった。XTCにとって非常に良いことだった。僕自身に対しても。失敗のお陰で常に挑戦出来た。アルバムを作る度に誰も買ってくれない。音楽評論家から賞賛されるが、実際には誰も買ってくれない。失敗だ。“うわー、よし次のアルバムではもっと良い曲を作り、もっと良いレコーディングで、もっと良いミックスで、もっと良い演奏で頑張るぞ”。また新しいアルバムを出す。評論家は誉めちぎる。誰も買わない。また失敗した。

XTCの音楽キャリアは一貫してその繰り返しだった。僕は常に次の作品を優れたものにしてやるぞという気持ちでやってきた。失敗感につきまとわれていなかったら、そういうスイッチが入ることはなかった。だから自分にとって失敗は本当に幸いなことだった。

 

僕は「失敗」の文字が書かれた電池を背負ったデュラセル・バニーだった。(注:エネルギー消費しまくっても電池切れしない「デュラセル」のうさぎキャラクター)失敗が原動力だった。

 

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ポール:現在、XTCは若い世代を含めあらゆる世代のファンに崇められている。中には“XTCの事知ってるのか?俺はXTCのことなら何でも知ってるぞみたいなマウントを取る“XTC博士”みたいなファンもいる。世界中から求愛されてる現状をどう思ってる?

 

アンディ:あの頃のXTCは、今の自分とは別の世界。あの痙攣みたいなコードをギターで痙攣してるみたいに弾いてるしゃっくりしてるみたいなボーカルのオドオドしたフサフサ髪のガキは誰?みたいな。しかもスーパー・タイトな演奏のバンドで。すごく変な感覚。なんと言ったら良いか。“夢精”と言うか、奇妙な夢って感じ。奇妙すぎて何度も目が覚めちゃう夢みたいな。

 

ポール:いつ再結成するのかと聞かれるのには飽き飽きですか?

 

アンディ:参ってる。それってちょっと侮辱だよねって。XTCは30年間?だっけ?一緒にやってきたのは?数学が苦手で。77年にアルバムデビューで2000年がラストアルバムだったから..。

 

ポール:少なくとも22年間。

 

アンディ:だよね。なのにファンに “(アメリカ人の鼻声を真似て)ねえ、再結成はいつ?”って聞かれるんだよね。

あのさ、一体、何枚アルバムを出せば、何枚シングルを出せば、何枚EPを出せば、何枚サイドプロジェクトを出せば、何枚他のプロジェクトを出せば良いの?だから、宝がぎっしり詰まった洞穴ごと君らにあげたってば(笑)

再結成について聞かれるのは、元妻とよりを戻せって言われてるのと同じくらい酷い。

 

ポール:そうは言ってもアンディ自身が故意ではないとしても、ファンに対してXTCは解散したとは言わず、凍結中みたいな表現してファンを焦らして、変な期待を持たせてるところもあるのでは?

 

アンディ:法律上は僕とコリン間ではバンドは解散していない。(印税上の理由で?)一部はそうだが、僕らはアップルヴィーナス(Vol1&2)以外はXTCの作品の所有権はないが。ユニバーサルが永久に全所有権を持っている。XTCの5.1サラウンドシリーズのためにユニバーサルはXTCに所有権を一時リースさせてくれてる。ユニバーサルは、アルバム利益率5%に8%上乗せして取るから僕らメンバーより儲かっている。

 

マスターテープの紛失に関しては、イングリッシュセトルメントのマスターズは全部見つかっていない、ママーとビッグエクスプレスはいまだに完全に紛失中。

ショックなことに、アップルヴィーナスをサラウンド化するにあたり必要なデジタル録音が困難だということが先週分かった。フォーマットの問題。すごい落胆した。(注:これについては下記のスティーブン・ウィルソンのインタビュー過去記事を参考。)

 

xtc-the-best-band-ever.hatenablog.com

 

 

でも時々、予想しないところで良いことが起こったりする。あなた(ポール)の友達、トッド・ラングレンはずっとスカイラーキングのマスターテープは彼のスタジオには保管されていないと言い張っていた。何度か彼に聞いたんだけど「持っていない」と否定された。ところが、以前、僕らのファンがトッド・ラングレンに会いに行って、許可を貰ってスタジオを見せてもらい、中の写真を撮ったんだけど、そこに棚に並ぶテープが映っていて、そこにスカイラーキングのテープがばっちり映っていたわけ。それで最終的にたどり着いたのがNYのキャピトルレコードの金庫に保管されていた。

 

ポール:優秀なスパイがいてくれて良かったですね(笑)

 

アンディ:意図していなかったが、僕らのファンがスパイになってくれた。彼女が「ほら、この棚に映ってるのを見て!」と写真を送ってくれた。

サラウンド化するのにスカイラーキングのマスターテープはかなりカットしないといけなかった。営業部の人間に聞かせるための部分をカットした。

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続きはそのうちPart 2で....。

おまけ:50:00くらいのところでアンディがJumpのイントロをアコギで弾く。その後、Shining Karmaをちょこっと歌っている。

 

 

 

 

 

 

アンディのパーティーDJプレイリスト

アンディがDJになったつもりで1曲づつ解説

 

open.spotify.com

    1. Take Five - Dave Brubeck

    This is music for people to put their coats on the bed, to hand a drink over and go and find a seat. It’s very jolly and pleasant and you can actually leave the television picture on with no sound while playing.

    パーティーに来た仲間がコートをベッドに置き、飲み物をみんなに渡し、座るイスを探す————-その時に掛ける音楽。とても陽気で心地良い。音を消したテレビをつけたままが良いね。

     

    1. Autumn Almanac - The Kinks

    This is a sort of warm song. Gives people the idea that pop music will be played from now on, and you find yourself secretly going ‘yes, yes, yes, yes’ so you get the idea that maybe it’s a party you can actually join in.

    ウォーミングアップみたいな曲。みんなにこれからポップな音楽が流れてくるんだろうなと思わせて、内心「そう、そう、その通り」と頷いてる。結構ノレちゃうパーティーかもって期待感。

     

    1. Do It Again - The Beach Boys

    Everyone likes The Beach Boys ‘cause they’re sickeningly jolly and you sort of get the idea ‘hey - it’s okay to dance’ because of that infectious backbeat there.

    ビーチ・ボーイズはみんな好き。気が遠くなるくらい陽気で、クセになるバックビートが「ヘイ!踊ってもいいんだぜ」という気にさせるから。

     

    1. Sex Machine - James Brown

    Now the mood starts to get a bit more involved. Anyone not dancing is in the kitchen running through their Open University psychology course and/or washing up while you’re being as sex machine with the girl from the fishmonger’s. You’re still worried about your carpet at this point. 

    そろそろムードが盛り上がってきた。踊っていない奴らがキッチンで放送大学の心理学コースを受講したり、皿を洗ったりしてる間、君は魚屋の娘とセックス・マシーン化してる最中。この時点ではまだカーペットを気にしてる。

     

    1. Gimme Some Lovin’ - Spencer Davis Group

    The first signs of vocal participation happen around here. Some people are starting to get drunk enough to get into arguments and swear that this is actually a Cream track. The first drinks start to get spilt and there signs of gaps appearing in the larder.

    この辺りから、みんな次第に歌い始める。何人かは口げんかが始まるくらいに酔っ払い始めて、実はこれはクリームの曲だ!と悪態をつく。お酒がこぼれ始め、食料庫が空になってきてる。

     

    1. Relax - Frankie Goes To Hollywood

    Vocal participation is getting very strong now, with people up and dancing and you begin to wish you’d invited the neighbors. There’s no way of denying there’s a party on when skinheads turn up with two bottles of Cherry B and it’s very difficult to deny people entrance.

    歌声も激しくなってきて、みんな立ち上がって踊り、ああ、お隣さんも招待すればよかったと思う。スキンヘッドがチェリーBのボトルを2本手に登場。もうこれは正真正銘のパーティーだ。誰も参加するのを拒めない。

     

    1. Satisfaction - Rolling Stones

    Everybody’s feeling a bit of a rebel by now - up and punching the air sort of thing. Your girlfriend and somebody you thought of as your best friend are mysteriously missing and the parents of the early leavers are standing grimacing in the hall as their daughter’s upstairs searching for her scarf. The first dolly of vomit appears on the windowsill.

    誰もがちょっと反逆したい気持ちになってる。ジャンプして宙を殴りたい感じ。君の彼女と親友が謎の失踪を遂げてる。パーティーを“早退”する奴らを迎えに来た親が、自分たちの娘が二階でスカーフを探している間、ホールで不機嫌そうに立ってる。窓辺に最初の嘔吐物の塊が現れる。

     

    1. Sisters of Mercy - Leonard Cohen

    Only about 20 seconds of this as your drunken tearful girlfriend re-appears and insensitively spoils the good mood by insisting petulantly that it’s her stereo and she wants this on… The fracas and the clanging of flying Party Fours of Whitebread are drowned by the opening chords of…

    この曲は20秒しか掛けれない。というのも、酔って泣きべその君の彼女が戻ってきて、自分のステレオなんだからこっちの曲をかけてと文句をつけるから。せっかくの良い気分を無神経な言動で台無しにされた。郊外に住む仲間達の飛び交う騒動は、次の曲のオープニングコードでかき消される...。

     

    1. All Right Now - Free

    It’s far from being all right now but who cares by this time? The first strip of wallpaper has been pulled away, the first police warning to “tone it down” has arrived, as has the first Arab bearing a bottle of milk and a hand-painted gold invitation, even though no invitations were in fact sent out! The first half of the trestle buffet table collapses under the weight of dancers.

    大丈夫とは言いがたい状態だが、誰も気にしない。最初の壁紙がはがされる。最初の警察の「音量を下げて!」という警告がされる。牛乳の瓶と手書きの金の招待状を手に最初のアラブ人が登場する。招待状なんて一枚も送ってないのに!ビュッフェテーブルの前の半分が踊る奴らの重みで壊れ落ちる。

     

    1. Hi Ho Silver Lining - Jeff Beck

    Vocal participation has now reached its height. No-one is even sure if the record’s still playing in fact. It’s the sort of version that goes on for half an hour because some bright wag keeps turning the record off when it gets to the chorus and everybody keeps going “His Hooo Silver Lininggg…” Best heard when dancing trouserless and wearing a lampshade.

    大合唱は今やピークに達した。レコードがまだかかっているかどうかさえ、誰もわからない。サビに入るところで毎回聡明な誰かがレコードを止めて、みんなが “ヒーズ・フー・シルバー・ラーイニーンング... "を大合唱するので、30分も延々と続くバージョンとなる。ズボンを脱いで、ランプシェードをかぶって踊るときに聴くのが最高。

     

    1. L.A. Blues - the Stooges

    No-one actually cares at this point what music is playing and some people will even try and dance to this. You look out of the window and see the mattress from your bed in flames in the garden, and the general scene looks like a painting by Heironymous Bosch or Dante’s Inferno with pomagne. It turns out that you went to school with one of the ambulancemen.

    この時点では誰もどんな音楽が掛かっているかなんて気にしていない。中にはこの音楽で踊ろうとする人さえいる。窓の外を見ると、ベッドのマットレスが庭で炎に包まれている。その光景はまるでヒエロニムス・ボスの絵画かポマーニュで堕落したダンテの地獄絵のようだ。実は救急隊員の一人と同級生であったことが判明。

     

    1. The Egyptian Book Of The Dead - The Third Ear Band

    After Verdun or Woodstock or whatever, what better to soothe the loving as they gently murmur - no louder usually than the dawn chorus, but they’re wrapped up in quilts and your curtains and laid in pockets of two and three nodding gently in agreement over things like what was the best line-up of Yes. 

    Generally something by The Third Ear band would wind down nicely.

    ヴェルダンやらウッドストックやらが終わると、愛すべき人々が静かな小言(通常は明け方の大合唱よりは静か)を言うのをなだめるには、23人と一緒にキルト布団やカーテンにくるまって、バンドYesの最高のメンバーラインアップ等についてそっと同意してうなずいたりしてる。だいたい、パーティーのお開きにはThe Third Earのバンドがいい感じに幕を閉じてくれる。

 

サラウンド・サウンドの天才スティーブン・ウィルソンの最新インタビュー#3「XTCの全アルバムをサラウンド化するまで止めない」「バージンの杜撰なテープ管理。ヘビメタ開祖サバスの中核アルバムのマルチテープは完全消滅」「アンディの几帳面さには脱帽。メールで”シンプルトンのニューミックスのハイハット10k出過ぎだよ”とか書いてくる(笑)!」

ティーブン・ウィルソンが語る#3 9.3.2021

XTCリミックスについて (かいつまみ和訳)

youtu.be

#2はこちら👇

xtc-the-best-band-ever.hatenablog.com

 

アンディからメールが来て、”あの5.1ニューミックス『メイヤー・オブ・シンプルトン』のハイハットだけど10k出し過ぎ”(笑)とか”『オムニバス』の”ベースドラム60kHz出し過ぎ”なんて書いてあるんです。非常に具体的!そして、いつも言ってることが正しい!

 

GO2とホワイトミュージックも是非やりたいですね。「ネオンシャッフル」、「メカニックダンシング」、バッテリーブライド」、「ビートタウン」とか。実は自分はポストパンク世代チャイルドなんです。1980年に十代になったんです。ワイヤー、コクトーツインズ、マガジンを聴いてました。XTCのアルバムは80年代中期に発見。そういう背景もあって、GO2とホワイトミュージックも大好きなんです。あの二枚に対して色んな改善が出来るんじゃないかな。良くアンディが、あの二枚のアルバムのドラムの音がタッパーだか段ボールを叩いてるみたいなんて言ってますよ。もっと活気横溢で心に迫るようなサウンドにしたい。実際にマルチトラックを手に入れるまでは分かりませんが...。

 

XTCの全アルバム14枚(デュークス2枚を含む)を5.1化したいと思ってるんです。現在は7枚目。全部5.1にするまで止めません。今は『アップルヴィーナス』のトラック紛失中でちょっと壁にぶち当たっている状態ですが....。(『AV』のサラウンド化が中断している詳細はインタビュー#2を参照。)良く今後のサラウンドミックスの予定を聞かれるんですが、”フルセットのテープが発掘されたアルバム”が次のサラウンドミックスとしか言えません(笑)。テープが見つかった順番にミックスする。

 

XTCのテープについて残念なのはきちんと保管がされていなかったこと。レーベルによりますが。大事に保管してくれるレーベル、そうでないレーベル。EMIはジェスロ・タルのテープを大切に保管してくれてました。バージンはそうじゃなかった。バージンのアーチストでリミックスをしたいアーチストが沢山あって取りかかろうと思ってたのに全部のテープが見つからないケースがいくつかあって。ブラック・サバスのテープは完全に消滅してます...。ヘビーメタ開祖のバンドですよ!サバスの中核となるアルバムのマルチテープが無いんですよ!多分、廃棄物コンテナに捨てたんだろうなと。

 

しかし、批判する際に気をつけないといけないのは、レコーディングした当時はそんなテープが何かのために必要になるなんて誰も思いもしなかっただろうということです。マルチテープがステレオにされた後、そんなテープは二度と要らないだろうと思うのは仕方が無い。まさか当時は5.1とかアトモス(進化版サラウンドシステム)なんてものは...誰も予期していなかったでしょうから。『AV』のトラックの紛失については、まだ見つかるだろうと楽観視しています。どこかにあるはず。可能性としては、ラベル名が誤記だったり、間違った箱に保管されてるとか。見つけるつもりです。

 

アトモスのサラウンドシステムは5.1に輪を掛けて凄い。次にサラウンドをやるXTCのアルバムはアンディにアトモス・ミックスで聞いてもらいます。聴いてもらえばアトモス・ミックスでやりたいと思ってくれるはず。音楽を水平面だけでなく垂直面にも配置出来るというのはもの凄いですよ。このアトモス・ミックスをやるのにXTCは完璧です。少なくとも後期のアルバム、特に『AV』はアトモス・ミックスにぴったりです。

 

サラウンド化した『25オクロック』や『スカイラーキング』みたいなアルバムはライブでは再現不可能な音楽でした。少なくとも簡単には出来ない。それがXTCの音楽の醍醐味。おかげでサラウンドでオリジナルレコーディングと同じくらいクリエイティブになることを要求されるわけで。AC/DCの場合————好きですが———ギターソロが背後や頭上から迫ってきて欲しくないでしょ。そういうベーシックなロックとXTCはレコーディング哲学が違うんです。

 

僕にもシグネチャサウンド、アプローチのパターンがあります。良くオンラインでファンが議論しているのを見ると”スティーブン・ウィルソンのシグネチャサウンドは〜〜だ”みたいなことが書かれています。僕のやり方は大抵ドラムとベースをフロントにきっちりとは配置せずに部屋にぼかす、ボーカルはセンタースピーカーだけどきっちりとは配置されず外側にぼかす。バッキングコーラスはいつもレアスピーカーに置く。時々、意識的にいつものパターンを変えます。デュークスはいつものとは違うことやろうと思いました。普通とは違うやり方って何だろう。もっと奇抜にやろうって。常に使い古したやり方はしたくないですね。

 

アンディとのコラボについてですが(ウィルソンの『ツー・ザ・ボーン』のタイトルトラックにアンディが歌詞を依頼されて提供した)、例えば、サラウンドをやったアーチストの中にはプロジェクトに全く興味が無い人がいるんです。シンプル・マインズは全く関心がなかった。イエススティーブ・ハウは1時間程来て、数曲サラウンドを聴いて ”良いね。じゃあ頼むよ” と帰って行きました。それだけ。全くアーチストからプロセスに関わろうとか関心を示すことはありません。それで最初から最後までアーチスト不在で自分一人で自由にミックスをやって自分、アーチストのファン、そしてレコード会社が気に入るように完成するんです。

 

プロセスに無関心なアーチストの逆がアンディ。ありがたいです。一方、何故アンディがプロデューサーを苛立たせるか分かるんです。僕はアンディみたいに関心を示してプロセスに関わろうとしてくれるのはとっても嬉しいですが。僕自身がアンディみたいなコントロールフリークだから!彼からメールが来て、”あの5.1ニューミックス『メイヤー・オブ・シンプルトン』のハイハットだけど10k出し過ぎ”(笑)とか”『オムニバス』のベースドラム、60kHz出し過ぎ”なんて書いてあるんです。非常に具体的!そして、いつも極めて正しい!でも、細かいと言ったら半端ない!そんなアーチストは他にいなかったんです。

 

僕の新曲に歌詞を依頼した時もそう。最初歌詞のコンセプトもアイデアも何もなかったので、アンディに好きなように歌詞を作って欲しいと”白紙委任状”を渡したんです。彼は音楽を聴いて、それが何を表現しているのかを歌詞にする人なんですが、僕の新曲の音楽を聴いて ”うん、この音楽はこういうことを言わんとしている”と。それをスプリングボードとして歌詞を作るんですね。早速、アンディから電話が来て”歌詞の一行出来たぞ!”って(笑)。”次の一行も出来た!”、そして更に次の一行も出来たって読んでくれるんです。”こんな感じで良い?”って聞くから、”うん、良いですね!”って。すると、”分かった。また次の一行を書くよ”。すると一時間後にまた電話が来て、”またもう一行出来た!”。

 

他のアーチストでは経験しないような細かいこだわり、几帳面さでした。でも、僕が同じ立場だったらきっとアンディと全く同じことをするんですよ。同じようにコントロールフリークだから。何故彼がそんなことをするのか理解出来るし、過去にいかに他の人を苛立たせてきたか分かるんです。特にプロデューサーはレコードをプロデュースしてもらうために雇うわけで。なのにプロデュースをさせないんですから。

 

自分もほとんど他人にはプロデュースしてもらいません。他人にプロデュースさせることが出来ない人間だってかなり最初から分かっていたから。多分アンディもそういうところがあると思う。XTCはバージンと契約し、ニューアルバムの度に超有名なプロデューサーを付けられて、アンディは一緒にレコーディングするはめになっちゃった。でも、それは正解だったんですよ。素晴らしい作品を残せたのですから。もしかしたら、XTCのアルバムが毎回異なっている理由は、その度にプロデューサーが異なっていたからなのかも。

 

何しろ今回のコラボはアンディは非常にきめ細かい仕事をしてくれました。楽しかったです。

 

〜完〜