XTC Best Band Ever

XTC is the best band ever. Period.

サラウンド・サウンドの天才スティーブン・ウィルソンの最新インタビュー#3「XTCの全アルバムをサラウンド化するまで止めない」「バージンの杜撰なテープ管理。ヘビメタ開祖サバスの中核アルバムのマルチテープは完全消滅」「アンディの几帳面さには脱帽。メールで”シンプルトンのニューミックスのハイハット10k出過ぎだよ”とか書いてくる(笑)!」

ティーブン・ウィルソンが語る#3 9.3.2021

XTCリミックスについて (かいつまみ和訳)

youtu.be

#2はこちら👇

xtc-the-best-band-ever.hatenablog.com

 

アンディからメールが来て、”あの5.1ニューミックス『メイヤー・オブ・シンプルトン』のハイハットだけど10k出し過ぎ”(笑)とか”『オムニバス』の”ベースドラム60kHz出し過ぎ”なんて書いてあるんです。非常に具体的!そして、いつも言ってることが正しい!

 

GO2とホワイトミュージックも是非やりたいですね。「ネオンシャッフル」、「メカニックダンシング」、バッテリーブライド」、「ビートタウン」とか。実は自分はポストパンク世代チャイルドなんです。1980年に十代になったんです。ワイヤー、コクトーツインズ、マガジンを聴いてました。XTCのアルバムは80年代中期に発見。そういう背景もあって、GO2とホワイトミュージックも大好きなんです。あの二枚に対して色んな改善が出来るんじゃないかな。良くアンディが、あの二枚のアルバムのドラムの音がタッパーだか段ボールを叩いてるみたいなんて言ってますよ。もっと活気横溢で心に迫るようなサウンドにしたい。実際にマルチトラックを手に入れるまでは分かりませんが...。

 

XTCの全アルバム14枚(デュークス2枚を含む)を5.1化したいと思ってるんです。現在は7枚目。全部5.1にするまで止めません。今は『アップルヴィーナス』のトラック紛失中でちょっと壁にぶち当たっている状態ですが....。(『AV』のサラウンド化が中断している詳細はインタビュー#2を参照。)良く今後のサラウンドミックスの予定を聞かれるんですが、”フルセットのテープが発掘されたアルバム”が次のサラウンドミックスとしか言えません(笑)。テープが見つかった順番にミックスする。

 

XTCのテープについて残念なのはきちんと保管がされていなかったこと。レーベルによりますが。大事に保管してくれるレーベル、そうでないレーベル。EMIはジェスロ・タルのテープを大切に保管してくれてました。バージンはそうじゃなかった。バージンのアーチストでリミックスをしたいアーチストが沢山あって取りかかろうと思ってたのに全部のテープが見つからないケースがいくつかあって。ブラック・サバスのテープは完全に消滅してます...。ヘビーメタ開祖のバンドですよ!サバスの中核となるアルバムのマルチテープが無いんですよ!多分、廃棄物コンテナに捨てたんだろうなと。

 

しかし、批判する際に気をつけないといけないのは、レコーディングした当時はそんなテープが何かのために必要になるなんて誰も思いもしなかっただろうということです。マルチテープがステレオにされた後、そんなテープは二度と要らないだろうと思うのは仕方が無い。まさか当時は5.1とかアトモス(進化版サラウンドシステム)なんてものは...誰も予期していなかったでしょうから。『AV』のトラックの紛失については、まだ見つかるだろうと楽観視しています。どこかにあるはず。可能性としては、ラベル名が誤記だったり、間違った箱に保管されてるとか。見つけるつもりです。

 

アトモスのサラウンドシステムは5.1に輪を掛けて凄い。次にサラウンドをやるXTCのアルバムはアンディにアトモス・ミックスで聞いてもらいます。聴いてもらえばアトモス・ミックスでやりたいと思ってくれるはず。音楽を水平面だけでなく垂直面にも配置出来るというのはもの凄いですよ。このアトモス・ミックスをやるのにXTCは完璧です。少なくとも後期のアルバム、特に『AV』はアトモス・ミックスにぴったりです。

 

サラウンド化した『25オクロック』や『スカイラーキング』みたいなアルバムはライブでは再現不可能な音楽でした。少なくとも簡単には出来ない。それがXTCの音楽の醍醐味。おかげでサラウンドでオリジナルレコーディングと同じくらいクリエイティブになることを要求されるわけで。AC/DCの場合————好きですが———ギターソロが背後や頭上から迫ってきて欲しくないでしょ。そういうベーシックなロックとXTCはレコーディング哲学が違うんです。

 

僕にもシグネチャサウンド、アプローチのパターンがあります。良くオンラインでファンが議論しているのを見ると”スティーブン・ウィルソンのシグネチャサウンドは〜〜だ”みたいなことが書かれています。僕のやり方は大抵ドラムとベースをフロントにきっちりとは配置せずに部屋にぼかす、ボーカルはセンタースピーカーだけどきっちりとは配置されず外側にぼかす。バッキングコーラスはいつもレアスピーカーに置く。時々、意識的にいつものパターンを変えます。デュークスはいつものとは違うことやろうと思いました。普通とは違うやり方って何だろう。もっと奇抜にやろうって。常に使い古したやり方はしたくないですね。

 

アンディとのコラボについてですが(ウィルソンの『ツー・ザ・ボーン』のタイトルトラックにアンディが歌詞を依頼されて提供した)、例えば、サラウンドをやったアーチストの中にはプロジェクトに全く興味が無い人がいるんです。シンプル・マインズは全く関心がなかった。イエススティーブ・ハウは1時間程来て、数曲サラウンドを聴いて ”良いね。じゃあ頼むよ” と帰って行きました。それだけ。全くアーチストからプロセスに関わろうとか関心を示すことはありません。それで最初から最後までアーチスト不在で自分一人で自由にミックスをやって自分、アーチストのファン、そしてレコード会社が気に入るように完成するんです。

 

プロセスに無関心なアーチストの逆がアンディ。ありがたいです。一方、何故アンディがプロデューサーを苛立たせるか分かるんです。僕はアンディみたいに関心を示してプロセスに関わろうとしてくれるのはとっても嬉しいですが。僕自身がアンディみたいなコントロールフリークだから!彼からメールが来て、”あの5.1ニューミックス『メイヤー・オブ・シンプルトン』のハイハットだけど10k出し過ぎ”(笑)とか”『オムニバス』のベースドラム、60kHz出し過ぎ”なんて書いてあるんです。非常に具体的!そして、いつも極めて正しい!でも、細かいと言ったら半端ない!そんなアーチストは他にいなかったんです。

 

僕の新曲に歌詞を依頼した時もそう。最初歌詞のコンセプトもアイデアも何もなかったので、アンディに好きなように歌詞を作って欲しいと”白紙委任状”を渡したんです。彼は音楽を聴いて、それが何を表現しているのかを歌詞にする人なんですが、僕の新曲の音楽を聴いて ”うん、この音楽はこういうことを言わんとしている”と。それをスプリングボードとして歌詞を作るんですね。早速、アンディから電話が来て”歌詞の一行出来たぞ!”って(笑)。”次の一行も出来た!”、そして更に次の一行も出来たって読んでくれるんです。”こんな感じで良い?”って聞くから、”うん、良いですね!”って。すると、”分かった。また次の一行を書くよ”。すると一時間後にまた電話が来て、”またもう一行出来た!”。

 

他のアーチストでは経験しないような細かいこだわり、几帳面さでした。でも、僕が同じ立場だったらきっとアンディと全く同じことをするんですよ。同じようにコントロールフリークだから。何故彼がそんなことをするのか理解出来るし、過去にいかに他の人を苛立たせてきたか分かるんです。特にプロデューサーはレコードをプロデュースしてもらうために雇うわけで。なのにプロデュースをさせないんですから。

 

自分もほとんど他人にはプロデュースしてもらいません。他人にプロデュースさせることが出来ない人間だってかなり最初から分かっていたから。多分アンディもそういうところがあると思う。XTCはバージンと契約し、ニューアルバムの度に超有名なプロデューサーを付けられて、アンディは一緒にレコーディングするはめになっちゃった。でも、それは正解だったんですよ。素晴らしい作品を残せたのですから。もしかしたら、XTCのアルバムが毎回異なっている理由は、その度にプロデューサーが異なっていたからなのかも。

 

何しろ今回のコラボはアンディは非常にきめ細かい仕事をしてくれました。楽しかったです。

 

〜完〜